> スネ雷小説アーセナル以降改変7

■ Re-Birth (7) ■

 

 

 

 ブレード一本ではどうしても、防御を優先せざるを得ない。俺は防戦一方になりながら奴の隙が出来るのを待つうち、奴の二刀流は付け焼刃ではないかと思い始めた。

 基本的に、刃物での戦いは二刀流の方が有利だ。片方で防御し、同時にもう一方で攻撃が出来る。一刀では必ず生まれる、防御から攻撃に移るまでのタイムラグが二刀なら存在しない。だが子供の俺に戦闘訓練を施していた頃のソリダスは二刀流ではなかったし、奴の二刀の使い方は、左右がほぼシンクロしている。どちらも攻撃か、どちらも防御。攻撃と防御が、あまり同時には出ない。つまり奴は、幅の広い刃物一本を振り回しているようなものだ。

 そうはいっても、短射程ではブレードと蹴りが、中射程では触手が、長射程ではミサイルがすかさず飛んでくる。ローラーダッシュで間合いも操られる。

 ───僅かでも、隙が出来れば。

 そう思いながらも、防戦を強いられる。だが、いつまでもすべての攻撃をかわすことは出来ない。何とか致命傷だけは避けているものの、度重なるダメージと疲労に、ついに脚が縺れた。

「く…っ…!」

 躓きかけた俺にとどめを刺そうと、ソリダスが両の刃を振り上げる。その瞬間、奴が一瞬、俺の遥か後方に気を取られた。何に、なんて確認している暇は無い。俺はとっさに逆にソリダスの懐に飛び込み、斬りかからんと両腕を振り上げた胴体を抜き去った。返す刀でパワードスーツの背骨の中央部分も絶ち切る。確かな手応え。一瞬遅れて、血飛沫と火花が舞う。

「…ぐ、…ぉ……」

 よろよろと蹈鞴を踏むソリダスを尻目に、俺は振り返って自分を救ってくれたものの正体を見た。離れたビルの屋上で、スコープが朝日に反射している。本能的に、狙いは俺ではなくソリダスだ、と感じた。スネークに違いない。

 

 

 

 地上へ下りると、ソリダスは崩れかけたジョージ・ワシントンの銅像に縋りつくようにして息絶えていた。傍には星条旗が、空しくはためいている。

 どれだけ憎んでも飽き足らない男だというのに、俺の胸には何故か、憐れみとやりきれなさが残った。ソリダスを倒したからといって、奴の言った通り自由になれたとは、とても思えなかった。

「俺は、一体……誰なんだろう……?」

「───誰も、自分が何者であるかなんて、答えられないさ」

 一人ごちた俺の言葉に、応える声があった。いつの間にかスネークが、俺の傍に立っている。

「…スネーク!」

「自分の名前など自分で決めれば良い。どう生きるかも、この世に何を残すのかも」

 早朝のためか、一般人の姿は殆ど無かった。フェデラル・ホールに突っ込んだアーセナルの周辺に、警察や消防が慌てて集まり始めている。今頃何だ、と思ったが、彼らも情報を遮断されていたのかもしれない。

 溜息をついてその様子を見つめる俺の胸元を顎で示して、スネークは俺に問いかけた。

「そういえば、それは何だ?」

「────ドッグ・タグ……?」

 銀色のタグを掌に載せて、刻印された文字を見る。自分の名前の筈なのに、何の愛着も湧かなかった。見たことも無い文字列のように思える。

「どうだ? 知ってる名前か?」

「───いや。知らない名前だ」

 俺は首からぶら下がっているタグのチェーンを引き千切り、瓦礫の向こうに放り投げた。「ジャック」はソリダスがつけた名前。苗字はこの国の役人が、適当に付けただけのもの。俺の本当の名前じゃない。

「自分の名前は自分で決める。俺の生き方も、後世に何を残すのかも。それに───あいつらから、学んだこともある」

 迷いを振り切った俺の言葉にスネークは満足そうに頷いた。俺も思わず、笑って頷き返す。すっきりとした気分だった。

 それから、オセロットを追って海に飛び込んだはずの彼がどうしてここにいるのか、という疑問を思い出す。オルガのことも気になった。

「───オルガは? オセロットは?」

「オルガは無事だ。拘束されていたが、アーセナルがマンハッタンに衝突した際、部下達に助け出されて脱出した。N.Y.P.D.程度になら、捕まることもないだろう。オセロットのRAYには発信器を取り付けた───だが、オセロットが知らされていた奴らの居所が本当かどうかは、怪しいものだ」

「そうか……」

「大丈夫だ。手掛かりは、もう一つある」

 落胆した俺を励ますように、スネークは笑顔で腰のポーチから銀色のディスクを取り出した。それは確かに、見覚えのあるものだ。

「それは……オセロットに奪われた筈……!」

「お前に渡したのはニセモノだ。一旦オルガに預けた。装備と一緒に、返してもらったんだ」

「…っ?」

 俺がディスクを奪われると、見越していたということか。何だか信用されていないようで、少し気に障る。

「気に入らんか? まぁ、過ぎたことだ、気にするな。この中には、G.W.から削除すべき情報、つまり『愛国者達』への手掛かりが入っている。オタコンになら、何か判るはずだ」

「そうか───なら、俺も一緒に……!」

「────本当に、それで良いのか?」

 スネークの表情が突然笑みを潜め、真剣なものになった。

「え……?」

「───お前は、どうしたい? 俺がどうとか、世の中の為にどうすべきか、とかじゃない。お前自身が、どうしたいのか、だ」

 俺自身の気持ち。本当の、俺の心───…。

 彼には迷惑かもしれない。

 人として、正しくないかも知れない。でも────。

「俺は────俺は、アンタと、行きたい……」

「来れば、二度と戻れないぞ。普通の幸せも、手に入らなくなるだろう。それでも、俺と来るか?」

 普通って何だ? ───幸せって……?

 俺がずっと思い描いていた、『普通の幸せ』。ローズと結婚して、子供が産まれて、愛する家族が出来て───。以前は薔薇色に思えたそのビジョンは、今ではすっかり色褪せて、まるで下手な合成写真のように思えた。

 そんなの、ニセモノだ。それよりも────。

「…………『普通』も『幸せ』もいらない。アンタと生きたい」

「────後悔しないか?」

「……ああ。アンタとなら、たとえ地獄の底だって、構わない」

 頷き合い、その場を立ち去ろうとしたところで、アーセナルに群がっている野次馬や消防に混じってベージュのスーツを着た場違いな女が一人、近づいて来るのが見えた。俺が、恋人だと信じ込まされていた女。

「───ローズ……実在したのか……」

「あれか───どうする? 戻るなら、最後のチャンスだぞ?」

 俺の視線の先に気付いたスネークが、足を止める。くどい程の念押しが、逆に俺の決心を強固なものにした。

「────ケリをつけて来る。少しだけ、待っててもらえるか?」

「……判った。ここじゃ目立つから、そこの路地にいる。急げよ」

 

 

 

「ジャック……」

 瞳に涙を浮かべ、感無量といった顔で彼女は俺の目の前まで歩みを進める。大した演技力だ───俺は自分の心がスゥッと冷えていくのを感じた。

「───ローズ。一応、実在したんだな」

「ジャック? 何を言っているの?」

「お前の本当の名前は何だ?」

「? ローズマリーに決まってるじゃない。貴方の恋人の。───まさか……私が判らないの? 頭でも打った?」

「恋人? 白々しい。お前は俺の監視役───仕事で俺を、スパイしていたんだろう?」

「……ええ。確かに、始めはそうだったわ。でも貴方を知って、貴方と過ごして、私は貴方を愛してしまった───貴方が愛してくれたのは、造られた私。でも私が愛しているのは、本当の貴方よ!」

「本当の俺だと? そんなもの、俺にも判らないのに? ───感心するよ。そんなことを、よくも今更ぬけぬけと言えたものだ」

 彼女が一言話すごとに、心が冷えていく。もう彼女の言葉は、何一つ信じられなかった。

「ジャック、信じて───! 私……私、お腹に……赤ちゃんが────」

「それは良かったな───で、誰の子だ?」

「酷いわ! 貴方の子供に決まってるじゃない!」

「俺とお前はセックスなんて、したことはないはずだ」

 ソリダスの調教のせいで自慰すら出来ない俺に、女性との性交なんて出来るわけがない。彼女が嘘を並べているのは明らかだった。

「ジャック!」

「っ、俺を、その名で呼ぶな───!」

 そう名づけられてから、俺の人生は地獄だった。元の名前が何だったにせよ、忌まわしい『ジャック』の名はドッグ・タグと共に、さっき捨て去ったのだ。

 怒鳴りつけると、泣き出す寸前のようだった彼女の顔から一瞬、表情が消えた。

「─────そ。やっぱ全部、思い出しちゃったか」

 大きな溜息をついて、突然口調が変わる。微笑さえ浮かべて。

「あ~あ。ソリダスと直接接触させるのはマズイって、何度も具申したんだけどな」

 今まで接してきたローズのイメージとの落差に面食らっている俺の腕に、彼女が身体を摺り寄せてくる。

「ね、どう? アタシがアンタの好みなのは変わりないんだから、もう一度、出会いからやり直さない?」

「───っ!? ふざけるな!」

 あまりの厚顔さに虫唾が走った。絡みついた腕を強引に振りほどく。

「あら、残念。結構、アンタのこと気に入ってたのに。アタシが泣いたり怒ったりするとすぐにオロオロして、ご機嫌取ろうと必死でさ。アンタ可愛かった」

「貴、様───!」

「そんな怖い顔しないでよ。ダメモトで言ってみただけ。───ね、これから、どうするの?」

「……お前に教える義理があるのか?」

「ないよ。一応、訊いてみたの。どうせ後で上司に訊かれるからさ。恋人ごっこの相方のよしみで、教えてくれない?」

「───スネークと行く。誰にも邪魔はさせない。お前にも───!」

「ンな事しないって。アタシは諜報と、心理操作が専門。戦闘は苦手なんだ」

「心理操作だと──?」

「そうね、例えば───夕御飯はアタシの手料理とレーション、どっちにする?」

「……レーションに決まっているだろう」

「何だか失礼ね。まあ良いわ。アンタはそれが、自分の選択だと思ってるでしょ? 自分の意思で決めたことだと。でも本当は、外食でもテイクアウトでも、何だって良い筈よね? こんな風にわざと選択肢を限定して、こちらの意図に沿った行動をさせる。それを自分の意思で行っていると思わせるのが、心理操作の基本よ」

 言われてみれば彼女には、「それだけは勘弁してくれ」という選択肢と、気は進まないがそこまで嫌ではない選択肢を二択で与えられることが多かった気がする。どちらにしても嫌なことを、選ぶように仕向けられた。

「───なるほど。俺は好いように操られていたってわけだ」

「まあね。アンタは素直だから、やり易かったわ」

「脳内移植機械(インプラント)で俺の記憶をいじり回したのもお前か?」

 ナノマシンは事前に長々と説明されて同意の上で注入されたが、ソリダスが言っていたインプラントには全く覚えがなかった。奴がそんな嘘をつくとも思えない。詰め寄ると女は悪びれる風もなく、あっさりと肯定した。

「ええ。正確にはアタシというより、アタシ達、だけどね。色々いじらせてもらったわ。どうせソリダスの事や虐待の事は、アンタも忘れたかったんでしょ? 簡単に封じることが出来た。でも───スネークに対する執着は、薄めるのが精一杯だったわ。完全に封じてしまうと、アンタの自我まで消えかねなかったからね。両親に対する感情より、会った事もない男への執着が強いなんて───ちょっと異常よ?」

「……放っておいてくれ。俺の周りには異常だらけだ。お前も含めて」

 確かに異常なのかも知れない。だが、俺の記憶の中に『普通』の事など何も無いし、特にこの女にだけは、それをあれこれ言われたくはなかった。怒りを隠しもせずに言い放つと、彼女はひとつ溜息をついて目を上げた。

「ねえ───本当に、アンタの子を妊娠してるって言ったら、どうする? 料理に薬を入れて、眠っているアンタから精子を採って、人工受精したの」

「な、んだと……!?」

 それならば有り得る。あの信じられない不味さも、そのあとしばらく前後不覚に陥るほど体調を崩してしまったことも、説明が付く。愕然として二の句が継げない俺の顔をしばらく眺めてから、彼女は笑った。

「───ふふ、冗談よ。驚いた? アタシみたいなイイ女を振った腹いせ。ま、ホントにそんな話もあったけどね。アタシが女の魅力で何とかするからって、やめさせたわ。さすがに女のプライドが、傷つくじゃない?」

「───今度こそ、本当だろうな?」

「アンタには嘘ばかりついてきたけど、これだけはホントよ────それじゃ、もう会う事もないでしょうけど───というより会ってもきっと、アンタには判んないか───まあ、せいぜい気をつけてよね。凶暴な野良犬は、『殺処分』だから」

 にこやかな微笑を浮かべた瞳に一瞬、剣呑な光が閃く。戦闘は苦手だと言っていたが、とてもそうは思えない殺気だ。俺は気圧されないよう腹に力を入れて、自分の恋人だと思わされていた女を睨み返した。

「───都合良く利用されたあげく死にに行かされる軍用犬より、野良犬の方がよっぽどマシだ」

「そう………じゃあ、さよなら。アタシのジャック───」

「ああ。さよならだ───ローズマリー」

 俺たちは互いに踵を返して歩き始めた。彼女が少し立ち止まる気配がしたが、俺はもう振り向かなかった。

 

 

 

 スネークの入って行った路地へ向かうと、奥の方で彼がホームレスの老人と話しているのが見えた。彼が紙幣を何枚か渡すと、老人は錆びたショッピングカートからごそごそと布切れや何かを幾つか引っ張り出した。ボロボロのコートと、ニット帽にサングラスが二つずつ。

「何してるんだ?」

「これを着ろ」

 ざっと拡げて、やや傷みの少ない方を俺に差し出す。どっちにしろボロには変わりないが。言われるままに袖を通して、俺はその猛烈な悪臭に顔を顰めた。恐らくはアルコールと吐瀉物、そして糞尿の臭い。

「─────クサい……」

「しばらく我慢しろ。髪と瞳はしっかり隠せよ」

 俺達の格好は、街中じゃ怪しすぎる。特にお前は、何を着てても目立っちまうからな。

 受け取った紙幣を目を擦り付けるようにして確かめていた老人が、スネークの言葉に顔を上げて、素っ頓狂な声を上げる。

「こりゃまた随分と、別嬪なお兄さんだねぇ! どっかのボスの、愛人か何かかい? あんた、ボディガード?」

「な…っ!」

 慌てて抗議しようとした俺を片手で制すると、スネークはニヤリと笑って答えた。

「違う。コイツは、俺の、恋人だ」

 ─────俺の、「何」だって?

 彼の台詞に、俺は手に持っていたサングラスを取り落としそうになった。泡を食っている俺の事などお構いなしに、スネークは更に数枚の紙幣を出し、老人の目の前でヒラヒラさせる。

「どっかのボスの横恋慕で、変な奴らに追われて困ってるんだ。奴ら警察にも、顔が利くらしい。どこかに良い抜け道はないか?」

「あ、ああ。そうだな、それなら───この先の三つ目を右に入って、一番奥にいる奴に『トム爺さんに聞いた』って言ってみな。N.Y.市内なら1000ドルで何処にでも、裏道を案内してくれるよ。警察にもヤクザな連中にも、見つからずにな」

「そうか、助かった。サンキュー、トム」

 スネークは爺さんに金を渡し、俺の肩を抱いてスタスタと歩き出す。俺は穴だらけのニット帽に髪を押し込みながら、慌てて彼の歩調に合わせて脚を動かした。

「アンタ、よく現金なんか持ってたな」

「持ってた訳ないだろう。俺だって一回、剥かれてるんだぞ?」

「え? じゃあ、それは────?」

 彼の手にはずっしりと分厚い、黒革の財布が握られている。中身はまだまだ入っていそうだ。

「さっき通りすがりの奴から、勝手に拝借した」

 スネークが人差し指をチョイチョイと曲げる。それってもしかして……。

「───まさか、掏ったのか!?」

「人聞きの悪いことを言うな。ちょっと借りただけだ。後で落し物として返すさ。カードが入ってるから身元も判るし、横に秘書みたいなのが付いてたから、しばらく現金が無くても大して困らんだろう」

「それって、ドロボー……」

「何だ、俺が聖人君子だとでも思ってたのか?」

 小声で話しながら教えられた三つ目の角を曲がりかけると、後ろからトムが手を振って大声を張り上げた。

「頑張れよ、アンタら! 『愛の逃避行』だ!」

 真っ赤になって立ち竦む俺を尻目に、スネークは何も言わずにヒラヒラと手を振って、笑顔を返した。

「───な、何なんだよ『愛の』って───こ、恋人、とか───」

 再び肩を抱かれて歩き出しながらドギマギして呟いた俺の顔を、スネークが覗き込む。

「違うのか? 俺はそのつもりだったんだが?」

「だって、アンタは……伝説の英雄、だろ? 俺なんか───ただの人殺しで、男達のオモチャだ───アンタには、似合わない……」

 言ってしまってから、俺は思わず俯いて立ち止まった。スネークも歩みを止めて溜息を付く。

「───『似合わない』ってのは他人の評価だな。お前は自分の気持ちより、他人の目を優先するのか?」

「だが───」

「俺は惚れた相手としか、セックスはしない。もちろん風俗でヌいたり、娼婦買ったりしたことはあるがな。さっきやった時、それ位は判らなかったか?」

「あの時は───ああするのが一番良いと、思っただけだろう?」

 早く薬を抜くためと、精神的なショックから立ち直らせるため。あの状況で、俺を早急に戦力として復帰させるためには、効果的だったといえる。多少の同情くらいは、あったかもしれないが。

 ずっと憧れていた、死んだと聞かされていた男に会えた。あまつさえ、身体を重ねた。ほんの少しでも、彼の役に立てた。それだけでも、今日まで生き延びてきた甲斐があったと思える。

 こうして共に行くことを許してもらえただけでも、まだ半分夢を見ているような心地なのだ。それ以上を望むつもりは毛頭なかった。俺なんかには、過ぎた願いだと思った。スネークは俯いたままの俺の顎をそっと上向かせ、視線を合わせた。

「……『人殺し』も『オモチャ』も、昔の『ジャック』の話だ。今のお前には、関係ない。過去は誰にも変えられない。だが、未来まで過去に縛られる必要はない───御伽噺だってそうだろう?」

「おとぎばなし?」

 およそ彼には似合わない単語に、思わず首を傾げると、スネークは笑みを浮かべて力強く頷いた。

「シンデレラとか白雪姫とか。前半は悲惨だが、最後はハッピーエンドだ。辛い事があったからといって、いつまでも不幸でいなきゃいけないわけじゃない」

 何故かどっちも冒険譚や成功譚じゃなく、不幸な継子のヒロインが王子様に助けられて、結婚して幸せになる話だ。

「───アンタが御伽噺なんて、意外だな。結構メルヘン好き……?」

「……せめてロマンティストと言ってくれ」

 スネークが少し眉を顰めながら顎をしゃくって促し、俺達はまたガラクタだらけの路地裏を歩き始めた。

「つまり、アンタが俺の───白馬の王子様、ってことか?」

「ははっ、そうかもな。まあ俺みたいなムサいのより、お前の方がよっぽど王子様っぽいが。『事実は小説より奇なり』ってことだ───言っておくが俺は、同情だの何だので男相手に勃たせられるほど、便利な身体はしてないぞ?」

 そう言うとスネークは、真っ赤に染まったままの俺の頬に、またそっと口づけた。

 

Re-Birth(8)に続く)

 

 

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