> スネ雷小説アーセナル以降改変6

■ Re-Birth (6) ■

 

 

 

 俺達が格納庫に上がっていくと、スネークがソリダスとRAYの頭上に立つオセロットに挟撃されようとしているところだった。その後ろには沢山のRAYの残骸が煙と血飛沫のようなものを上げて転がっている。

 RAYは壊滅させたものの、奴らに追い詰められてしまったのか? 慌てて飛び出そうとした俺を、フォーチュンが手を拡げて制した。

「待って頂戴! ───スネークに、話があるの」

「ジャックか……良いところに来た。アーセナルのA.I.、『G.W.』は破壊された───代わりにお前に答えて貰うぞ、わが息子よ」

「……っ?」

 ソリダスはスネークに銃口を向けたまま、俺を見た。フォーチュンが俺を庇うように前に出る。

「一体何を訊くつもり? 彼が何も知らないことは、知ってるはず……」

「お前の知ったことではないな。お前こそ、こんなところで何をしている? 早くアーセナルを奪って、核で奴らに宣戦布告したかったのではないのか?」

「……教えたのは誰? オセロット?」

「少し違うな。私がオセロットを使って、お前達がそうするよう仕向けたのだ。アーセナルは最初から、お前達にくれてやるつもりだった」

「……随分と、気前が良いのね?」

 腹の探り合いのような会話が続く。ソリダスはもうあまり隠す気はないらしく、フォーチュンの問いにあっさりと答えた。

「そうでもない。このアーセナルとて、決して無敵ではない。護衛の量産型メタルギアも、多数のミサイル兵器も、陸・海・空の支援があって初めて機能するものだ。何の補給もなく大部隊に包囲されれば、ただの巨大な棺桶に過ぎん───アーセナルを奪うこと自体に、意味はなかったのだよ」

「そう……なら、貴方の目的は何?」

「───愛国者達の名簿(リスト)だ……!」

 奴は虚空を睨み付け、何かを握り潰すように拳を固めた。

「奴らはこのアーセナルが守る『G.W.』を使って、デジタル情報の統制を行おうとしていた。それは削除すべき情報……『愛国者達』の正体が『G.W.』内に存在するということを意味する」

「それを手に入れて、リストの人間を一人ずつ殺していくつもりだった……ってこと? アーセナルを手に入れた私達が彼らの目を引き付けている間に───」

「そういうことだ」

「───利用してたのね?」

 自嘲するように笑った彼女を、ソリダスも鼻で笑った。

「お互い様だろう?」

「でも、アーセナルのA.I.は破壊された。貴方の目論見も、外れたってことじゃない?」

「いや───まだ手は、残っている」

 奴は俺に視線を戻すと、ニヤリと笑った。ぞくりと悪寒が走る。これは───獲物を見る目付きだ。まだ俺を何かに、利用するつもりらしい。

「……そう。なら私達は、私達の方法を取らせてもらう。アーセナルはお言葉に甘えて貰っておくわ───でも、その前に訊きたいことがある。スネークと……オセロットにね」

 フォーチュンはUSPを構えたままのスネークと、RAYの頭上に立つオセロットに視線を向けた。オセロットが不審そうに首を傾げる。

「私に? 何だ? お前達が知りたがっていたことは、すべて教えてやったはずだが?」

「───2年前、あのタンカーで本当は何があったの? 父を殺したのは誰? 本当にスネーク?」

 フォーチュンの問いにスネークは大きな溜息をついて首を振り、口を開いた。

「……俺じゃない───と言っても信じないだろうが……。ジャクソン司令官とゴルルコビッチ大佐を殺し、タンカーを爆破し、RAYを強奪したのはオセロットだ。タンカーの破片を調べれば、RAYの水圧カッターの痕跡が見つかる筈だ」

 そう言った後、ふと思い出したように言葉を続ける。

「そう……確か、『返してもらう』とも言っていたな───愛国者達に。奴らの為に動いている貴様が何故、ソリダスと共にいる?」

「何だと……!?」

 スネークの言葉に驚いたソリダスがオセロットを見上げると、奴は突然、大声で笑い始めた。楽しくてたまらないとでも言うように。

「貴様、何が可笑しい───!?」

「茶番は可笑しいものだろう? もう少し見ていたかったが、バレちゃあしょうがない───そろそろ終わりにしようか」

「何を言っている?」

「お前達がここでやってきたことは、全て我々が計画した演習だったのだよ」

「演習だと?」

「S3計画はソリッド・スネークに匹敵する兵士を量産するための計画───そう教えてやったな。だがその養成過程はそこの小僧が受けてきたVR訓練のことではない。ソリダス───お前が自分の意思で起こしたと思っているこのテロこそが、そのための演習だったのだ。シャドーモセスを再現するためのな」

「何!?」

 声を荒げたソリダスを、オセロットが馬鹿にしたように見下ろす。

「エイムズと大統領の死、忍者の出現、そしてFOXDIEを模したコンピュータ・ウィルス……それらが全て偶然だと、本気で思っていたのか?」

「どういうことだ!?」

「ある状況で、あるストーリーを背負わせる。そうすることで誰でもスネークになれる。新兵でも老兵の戦果を上げることができる───即席で最強の兵士───その練成プログラムを作り上げるための、データ収集が目的だった。お前も、デッドセルもオルガも……そのための駒として配置されたに過ぎん」

 オセロットは愕然としているソリダスから、フォーチュンに目を移した。

「フォーチュン。お前達がシャドーモセスでスネークと戦った、FOXHOUNDの役だ。お前達と小僧を戦わせるために、ありもしない純粋水爆の話をでっち上げた。いや、それだけではない。2年前、お前の親父をタンカーと共に沈めた時から、計画は始まっていた。お前の夫の投獄も、計画の一部だ。半年前のデッドセルの壊滅・解散。それを仕組んだのが愛国者達と見せかけて、お前達の憎悪を煽った。お前達は我々の目論見通り、復讐に走ってくれた───」

「……すべて……計画………?」

「だがソリッド・スネーク本人の登場だけは誤算だった。一体誰が、お前を呼んだのか───」

 やれやれとでも言うように首を振るオセロットの姿に、あまりのことに呆然としていたフォーチュンの思考回路が動き始めたらしい。

「私達の不幸が……奴らの作為───!」

 彼女が飛び出してハンドガンを向けるのと同時に、オセロットが抜く間も見せずSAAを発砲した。突き飛ばして助ける暇もなかった。今まであれだけの攻撃を無効にしていた彼女の『神話』は、たった一発の銃弾に崩れ去った。

「…っ…フォーチュン!」

「な、ぜ……?」

 ガクリと膝をつく彼女の左胸に、赤い染みが拡がっていく。勝ち誇ったオセロットがせせら笑う。

「お前は幸運を呼ぶ女などではない。どこにでもいる、平凡な女だ───お前に弾が当たらないのは、魔術でも気功でも、ましてや超能力などでもない。すべては愛国者達の演出。彼らの電磁波兵器のお陰なのだ。何の取り柄もないお前を戦場に引きずり込み、お前の親父と旦那を慕うデッド・セルの連中を操るためにな。オルガを利用したのと同じだよ」

「そ、んな……」

「お前は愛国者達の用意したシナリオに沿って、悲劇のヒロインを演じていただけ。自分を不幸と思い込み、周りを呪って自分自身に酔っていただけだ!」

「……そう……そういうことだったの………」

「む…? 外したか?」

 心臓を打ち抜かれた筈のフォーチュンが、ゆらりと立ち上がった。一瞬オセロットがたじろぐ。彼女はもう一度オセロットに銃を向け、次々と引鉄を引いた。腕は悪くないようだ。すべてが奴を照準に捉え───そして、逸れて行った。どう見ても不自然に。

「───そうか、お前は心臓が右だったな? 無駄だ。お前の運は尽きた。これがその仕掛けだ」

 オセロットは腰に取り付けたパームサイズの機械を、軽く叩いて見せた。

「今のテクノロジーを使えば、奇跡も幻想も造り出せる」

「…っくぉおおおぉっ!!」

 揶揄うような瞳で俺達を見下ろすオセロットに、裏切りを悟ったソリダスがP90を向けた。速射される弾が悉くはじかれる。弾数が多い分、オセロットの身体を包む障壁のようなものの輪郭がはっきりと見えた。

「ち、くしょう……」

 かろうじて立っていたフォーチュンが、怨嗟の言葉を吐きながら崩れ落ちる。それを見届けたオセロットが、RAYの操縦席へと跳躍した。ソリダスが触手から小型ミサイルを発射して追撃したが、それ等もまた、奴の身体の近くまで行くと意識を失うように制御を失い、落ちていった。

『さて───データは充分に集まった。後はこのアーセナルを回収し……演習過程で出たゴミを、始末するだけだ』

 RAYの機銃が俺達に向けられる。一番近くにいたソリダスがすかさず銃を捨て、二刀を抜いて銃弾を次々と跳ね返した。

「出来るものかぁぁ!!」

『…っ…ならば、これでどうだ!?』

 機銃が効かないと見て、今度はRAYのミサイルポッドが開かれる。これは刀では防げない。弾こうと触れた途端、爆発でダメージを受けてしまう。

「まずい……!」

 身構える俺達の前に、フォーチュンが最後の力を振り絞るように立ち上がった。まるで俺達を守るかのように両腕を開いて突き出し、立ち塞がる。

「よせ! フォーチュン!」

「馬鹿な女だ! そこを退け!」

 俺とソリダスは、ほぼ同時に大声を上げた。そんな俺達を、オセロットが嘲笑う。

『……言っただろう? お前の運は尽きた───世話になった礼だ、RAYの全弾を……死ねぇ!』

 ミサイルポッドから次々とミサイルが発射され、矢のように俺達に降り注いできた。

「───伏せろっ!!」

 怒鳴りながら駆け寄って来たスネークの声に、俺は思わず身を屈めた。ミサイルは手を拡げたフォーチュンの前で軌道を変えて逸れては、空中で爆発していく。信じられない光景だった。

『───何と! 馬鹿な!!』

 オセロットは焦ったように、更にミサイルを撃ち続けた。爆風の中、俺達を守ろうと立ちはだかる彼女のシルエットが、オーラのように光って見えた。

「奇跡だ───幸運の女神………」

 自分の身体で俺を庇おうとしていたスネークが、呆然として呟く。確かに、奇跡としか言い様がなかった。ミサイルの雨が止むと彼女は腕を下ろし、静かに口を開いた。

「私は……ヘレナ・ドルフ・ジャクソン……誇り、高き……軍人の、娘───」

 それだけ言って再び血を吐き、崩れ落ちる。満足そうに最後の息をつくと、それきり彼女は動かなくなった。最後の『幸運』を俺達の為に使い果たし、息を引き取ったのだ。

『くそっ! ───よし、これでどうだ!?』

 RAYが再びこちらに攻撃態勢を取る。ソリダスは既に観念したのか、もう挑みかかろうとはしなかった。今度はスネークが俺とRAYとの間に割り込み、オセロットに一喝した。

「…っやめろぉぉっ!!!」

 不思議なことに、スネークの声に呼応するように、RAYの動きが止まる。数瞬の静けさの後、RAYのスピーカーからオセロットではない人物の声が響いた。

『兄弟達よ───!!』

「……リキッド!?」

 スネークの言葉に、俺は驚愕した。それはソリダスも同じだったようだ。シャドーモセスでスネークに倒された筈の男がどうして……?

 RAYのコクピットが開き、男が姿を見せる。外見はオセロットだが、確かに別人だ、と直感で判った。

「俺はずっとこの機会を待っていた───こいつの右腕の中で、覚醒の時を待っていた」

「オセロットに……潜伏していた!?」

 ソリダスが驚きの声を上げる。オセロットであるはずの男が、鷹揚に頷く。その仕草はスネークよりも、むしろソリダスに似ていた。

「うむ。愛国者達のスパイの腕の中でな」

「2年前の───あの時もか!?」

「そうだ。俺がこいつを支配していた───スネーク、貴様の相棒にアーセナルの情報を教え、ここに呼んだのは俺なんだよ」

「何!?」

「俺を解放出来るのは、貴様だけだからな───俺はこれから、愛国者達を葬りに行く」

「判るのか? 奴等の居場所が!」

「俺がオセロットの腕に寄生したのは、それが理由だ」

「その前に、貴様ら兄弟を片付ける! 蛇は一匹で良い! ビッグ・ボスは一人で充分だ!」

「……っ!」

 ソリダスは又、触手からミサイルを撃ったが、結果は同じだった。アーセナルが突然、ガクガクと振動し始める。航行を始めたのか、不具合でも起きているのか、とても普通には立っていられない。

『さぁ、お別れだ───少しの間、サーフィンでも楽しんでくれ……!』

 リキッドはそう言い残すと、RAYの機首を海へと向けた。どうやら飛び込む気のようだ。

「───死ぬなよ……」

 俺を抱き留めていたスネークは耳元で一言そう囁くと、リキッドのRAYを追って甲板の端へ走り出した。引き止める暇もなかった。

「リキッドォ! 暴走を止めろぉ───!!」

『───来るかぁ? スネーク!』

「うおぉぉぉぉぉ──っ!」

 スネークは雄叫びを上げてリキッドの操るRAYの後を追い、海中へと飛び込んでしまう。派手な水飛沫が上がり、一瞬で彼の姿が見えなくなる。

「…っ…スネェェーーーーク!!」

 俺は声の限りに彼を呼んだ。幾ら目を凝らしても、早朝の朝靄に遮られて、スネークの姿も、RAYの影も見えない。

 そんな………やっと、やっと逢えたのに───。

 水深が浅いのか、アーセナルがゴリゴリと海底に腹を擦っているような更に激しい揺れに襲われて、俺は立ち続ける気力もなく、その場にへたり込んだ。

 呆然と彼の消えていった辺りを見詰め続けていると突然、激しい衝撃に襲われ、全身が何処かに投げ出される。スネークと離れてしまったショックで身構える気も起きなかった俺は、着地の衝撃でそのまま気を失ってしまった。

 

 

 

 

「ふ、ふふふ……ふははははは……!」

 ソリダスの笑い声で、俺は目を覚ました。どこかの建物の屋根の上らしい。奴は舞う様に身体を動かしながら大声で笑っていた。俺の手首にはまた手錠が掛けられているが、ここにいるのは俺達二人きりのようだった。

「───何がおかしい?」

「これが笑わずにいられるか? ここはフェデラルホールだ。今日は何日だ?」

「4月……30日?」

「そう、200年前の今日、ジョージ・ワシントンが合衆国初代大統領演説に就任した。まさにここでな」

「本来なら、ここで───新たな国家の独立を宣言するはずだった。愛国者達を葬り、奴等の庇護を断ち切ってこの国を解放し───自由の鐘を鳴らす筈だったのだ!」

 ソリダスの顔から笑みが消え、奴は俺を忌々しげに睨み付けた。知らぬこととはいえ計画を破綻させた一因である俺を恨んでいるのだろう。俺は気圧されないように奴を睨み返した。

「───そうまでして、権力が欲しいか?」

「ジャック………私が欲しいのは、権力ではない。私が奴等から取り戻したかったのは───自由、権利、機会、……そう、この国が誕生した当時の基本概念。しかしそれら全てが今、デジタル上で剥奪されようとしている! ……ジャック、よく聞け───」

 そう言いながらも、それは俺に話していると言うより、まるで選挙の演説のようだった。姿のない大衆に向かって語りかけるように、ソリダスは言葉を続けた。

「人の寿命には、限界がある。誰にでも寿命はある。いつかは死ぬ。寿命とは何だ? 最適の遺伝子を後世に伝えるための猶予期間だ!」

 メリハリをつけ、テンポ良く、奴の演説が続く。まるで独演会だ。

「親から子へと……生命の情報が流れていく───それが、『いのち』だ。だが我々はまだ何も、この世に残してはいない……親父の体細胞から作り出された我々兄弟……『恐るべき子供達』は、あらかじめ子を成す能力を取り上げて生み出された。命のバトンを渡せない我々は、何をこの世に残せば良いのか? 我々が生きたという事実、それこそが……生きた証!」

 ソリダスは空に突き上げた拳をギュッと握り締めた。

「私は人の記憶に、この国の歴史に記憶されたいだけだ。愛国者達はデジタル情報を統制することで、己の支配と権益を守ろうとしている。私は私の記憶、存在を残したい。歴史のイントロンにはなりたくない。いつまでも記憶の中のエクソンでありたい───それが私の『子を成す』ということだ。だが、奴らはそれすらも……我々から、奪おうとしている……」

 握り締めた奴の拳が小刻みに震えた。

「───私は『愛国者達』を倒して自由になる。まさに……『自由の息子達』となるのだ!!」

 奴の演説が終わるのとほぼ同時に、大佐からのCALLが入った。

 

 

 

 大佐とローズからのCALLの内容は驚くべきものだった。S3計画の真相、俺がこのミッションに選ばれた理由……。俺を揶揄しコケにしながら、二人は長々と解説してくれた。

 オタコンの推論通りならアーセナルのA.I.である大佐は既に破壊された筈なのに、今度は一体何処から信号を送っているのか? そしてローズは何処から? 彼女は実在するのか? 考える暇もなく、ソリダスと戦う事を強要される。

 ローズが人質云々はかなり嘘臭いし、もし本当でも元々奴らのスパイだったなら自業自得だろうと思う。だが、俺が死ねばオルガの子供まで殺される。それに───スネークも『死ぬな』と言ってくれた。だから俺は、まだ死ぬわけにはいかない。

 武器もなく両手も封じられたままだが、とにかく俺は身構えた。

「ジャック……わが息子よ───我々兄弟が影の遺伝子情報を受け継いだ怪物とするなら……お前は決して語り継がれることの無い、影の歴史情報を受け継いだ怪物───どちらが後世に継承されるか、決着をつける必要がある」

 『愛国者達』はスネークにとってもソリダスにとっても共通の敵なのだし、散々奴らに利用され翻弄されてきた俺だって、奴等の事は許せない。共闘するか、せめて互いに敵対しないようにすれば良いのに、とちらりと思ったが、少なくともソリダスには毛頭、そんな気はないようだった。

「いいか、ジャック───お前の両親を殺したのは、私だ」

「……っ?」

「お前を誘拐し、戦士として、いや、悪魔として育て上げた。私はお前の親でもあり、敵でもある」

「───何故だ? 何故そんな……」

「知りたかったんだよ。我々が創られたものか、否かをな───我々は同じなんだよ? ジャック。リキッドやソリッドがその束縛から逃れようとビッグ・ボスを狩り立てたように……お前もこの私を倒して過去を清算しない限り、今の螺旋から抜け出ることは出来んのだ───お互い、自由になるべきだよな?」

 ソリダスはそう言って、俺の電磁ブレードを投げて寄越した。それは手錠を断ち切って屋根の上に刺さり、小さな雷光を散らす。拘束を解いた上、武器まで与えるとは。常識では考えられない行動だ。それだけ自信があるのか、それとも奴なりに何か、拘りでもあるのか───。

 ともかく、これで戦うことが出来る。俺は手錠で痛めつけられた手首をほぐしながら、不遜な表情で俺を見下ろしているソリダスを睨み付けた。

 向こうはミサイルや触手のついたパワードスーツに二刀流、こっちはブレード一本のみ。圧倒的不利には違いないが、可能性はゼロではなくなった。一瞬でもスキがあれば、何とかなるかもしれない。

「───私にはもう一つ、お前を殺さねばならん理由がある。G.W.内にあった『愛国者達』の痕跡は消された。だがその一部は今もまだ残っている───お前の中に」

「何?」

「お前の脳内にあるナノマシンとそれが作った神経配置。そこに奴らへの手がかりがある……!」

「……っ…?」

 そういう事か───。

 得心して睨み返した俺をしげしげと眺めて、ソリダスはフッと小さく笑った。

「───奴に、抱いてもらったようだな?」

「……だったら何だ?」

「良かったか?」

「───ああ。貴様とは比べ物にならない位にな。生まれて初めて、幸せを感じた───貴様にされたことなんか、蚊に刺されたようなものだ。何も後には残らない」

「そうか……」

 吐き捨てるような俺の言葉に、ソリダスは何故か寂しそうな、自嘲するような笑みを浮かべた。一瞬目を閉じ、溜息をつく。次に開かれた時にはもう、そこには怒気しか浮かんでいなかった。

「───ならば、もう思い残すこともあるまい。私の為に死んでもらうぞ、ジャック……!」

「……スネークのためになら、喜んで死んでやる。だが貴様のためになど、死ぬ気はない!」

「……結局、奴が一番、ビッグ・ボスに近いということか───…」

 俺がブレードを構えると奴は小さくそう呟き、ゆっくりと左右の刀を構えた。殺気を感じたのだろう、周囲の屋根で羽根を休めていた鳩たちが、一斉に朝焼けの空へと飛び立つ。

「さあ、行くぞ───!」

 再び戦いの幕が上がった。

 

 

 

 

Re-Birth(7)に続く)

 

 

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