■ On the wind ■
「──ス、ネーク……?」
強制スリープモードから定時の覚醒をした俺は、すぐ近くに彼の気配を感じた。左手が何故か温かい。まだ血量が足りないために、感覚器官の起動に時間が掛かる。ぼんやりとしていた視界が、徐々に焦点を結ぶ。
「目が覚めたか?」
「あ──何で……」
いつの間にか俺は、傍に座ったスネークの老いてなお暖かな掌を、きつく握り締めていた。
「ああ、少し魘されていたからな───もう良いか?」
「え…? ──あ、ああ……すまない……」
痛くはなかっただろうか? 血量不足で戦闘モードに切り替えられないとはいえ、今の俺の握力は、普通の人間のものではない。少し名残惜しい気持ちで、俺はゆっくりと指を開いた。
─── 一度だけ。
一度だけ、肌を重ねたことがある。
サニーをスネークとオタコンに委ね、ビッグママとの約束を果たしに行く前だった。
今から思えば、予感があったのかもしれない。マトモな体で会えるのはこれが最後だと。
先に手を伸ばしたのはどちらだったろう。互いに何も言わなかった。ただ名前を呼び合い、抱き締めあった。熱く激しく貫かれながら、陽だまりの様な彼の温もりだけを感じていた。
雷電に掴まれた手の甲を軽く揉み解しながら、俺はひとつ溜息をつき、意を決して口を開いた。
「そろそろ起きる頃だろうと思って───謝りに来たんだ。さっきは────すまなかった」
「あ……いや、俺の方こそ────」
みっともない姿を晒した、と思っているのだろう。怒って、泣いて、縋って。たった一人、自分を理解してくれると思っていた俺に拒絶されたと、誤解しているかもしれない。
「俺はな────お前にだけは、普通に家庭を持って幸せになって欲しかった。俺には……俺達には、出来なかった事だから。────俺の勝手な願いを、お前に託していた」
俺達、というのはソリダスやリキッドのことも含めてだ。ソリダスは「あらかじめ子を成す能力を奪われた」と言っていた。俺も、リキッドも。俺達のオリジナルであるビッグボスも作戦中の被曝で、子供を作れない体だった。俺達の過ちの根源は、そこにあったのかも知れない───次の世代を信じられない、託せない。無理にでも、自分の手で、と願ってしまう。
「でも、結婚して養子をもらえば、アンタだって───俺なんかより、よほど良い父親になれる筈だ。たとえ……短い間だけだったとしても」
雷電は後半、言い難そうに瞳を伏せた。俺の寿命が長くはないことを、感じているようだった。
「いや───この戦いが終わったら、俺はこの世から消えるしかない。勝っても、負けてもな」
「え───?」
「俺の中でFOX DIEが突然変異を起こし始めてるらしい。特定の人物だけじゃなく、無差別に人を殺すように───そんなモン入れられたことすら、すっかり忘れてたってのにな。もうすぐ俺自身が……大量破壊兵器になる。だから俺は、消えてなくなるしかない───髪の毛一本どころか、DNAの一欠片も残さずに、だ」
「そ、んな───!」
俺の告白に、バイザーの影になっていた水晶色の瞳が大きく見開かれた。
「そんな……そんなの……酷すぎる────アンタはずっと、命懸けで世界を救ってきたのに───あんまりだ───!」
外骨格の間に僅かに残った白い頬に、はらはらと透明の雫が流れ落ちていく。食い縛った口元が、小刻みに震えている。
「───泣いてくれるのか……俺なんかの為に」
「だって……酷い───!」
自分より雷電の方が、ずっと過酷な人生だった筈だ。両親を殺され、チャイルドソルジャーとなり、虐待、裏切り───挙句の果てにヒトとも機械ともつかぬこんな姿にされて。いつ人間として壊れていても、不思議ではない。そうやって実際に壊れてしまった人々を、自分は嫌と言うほどに見てきた。
それでも他人のために涙を流せるのは強く、純粋だからだ。まるで削られることでなお一層輝く、ダイヤモンドのように。
「───やっぱり、お前は綺麗だな」
突然スネークの唇が降りてきて、俺は目を見開いたまま動けなかった。声も出なかった。老いたそれはかさついてはいたが、やはり暖かかった。ほんの一瞬のようにも永遠のようにも感じられた口付けが離れ、ようやく喉の奥に留まっていた疑問を吐き出した時には、俺の声は小さく、掠れていた。
「……な、んで────」
以前の自分なら、容姿に多少の自信はあった。女顔なのも自覚していた。だからスネークのあの行為はきっと気まぐれか、単に溜まっていたんだろうと思っていた。彼にとって、深い意味はなかったのだろうと。
彼の行動よりも、ローズを愛しているはずなのに抵抗するどころか、ためらいもなく彼に応えた自分の方が理解できなかった。
この姿になった時はもちろんショックだったが、それでも、これでいいと思った。もう自分は「ヒト」ではない。ただの兵器だ。これでスネークの役に立てる。ローズへの未練も断ち切れる。そう思った。
「お前は綺麗だ」
繰り返されるスネークの言葉に、思考が停止する。
「な…に…?」
「お前は綺麗だ、と言った」
「───揶揄ってるのか? こんな姿のどこが…っ…」
「揶揄ってなどいない。そりゃあ、最初その姿を見たときには驚いたがな。中身は『単純、軟弱、石頭』の綺麗なままだったから、もっと驚いた」
「ウ、ソだ───」
「嘘じゃない」
もう一度、今度はゆっくりと舌を絡めて口付けられる。
「気持ち悪くないのか? こんな───」
鏡どころか水面の反射でさえ、不気味としか言いようが無い、骸骨のような面相なのに。
「……老眼のせいか、俺には相変わらず、男にしとくのは勿体無いくらいの美人に見えるがな」
「俺───もう、出来ないんだ」
生殖どころか、食事も、睡眠も、兵器には必要ない。エネルギーの消耗を抑えるための強制スリープモードと、人工血液内の廃物の排出と充電のための透析があるだけ。
「そうか────奇遇だな。俺もだ」
スネークは少し照れたように笑った。目尻と口元の笑い皺が、切なかった。それから真剣な顔つきになって、本来の皮膚が僅かに残っている俺の頬を撫でた。
「───いいか、忘れるな。痛むその心がある限り、お前は『人間』だ。例えどんな姿になっても、もしもいつか、涙すら流せなくなっても、お前は『人間』だ。判るな?」
彼の言葉を噛み締めて俺が頷くと、スネークはまた少し笑みを浮かべた。それはとても、優しい顔だった。
「痛みを感じるということは、幸せも感じられるということだ」
「『愛国者達』を倒しても、バラ色の未来が来るわけじゃない。少しはマシになるかもしれないが、それでも戦争や不公平は無くならないだろう。後は───お前に頼む。これは俺の闘いだ。その後が───お前の戦いだ。俺はもう助けてやることは出来ないだろうが───頼む」
ああ。これでいい─────。
ローズ───泣かせてばかりですまない。
でも俺は君を幸せにするために生きるより、スネークを守るために死にたいんだ。早くこんな馬鹿のことは忘れて、幸せになってほしい。
彼女の泣き顔ばかりが思い出された。『愛している』と言ってくれたのに。俺なんかと関わったために、君に辛い思いばかりさせた。
だが俺は、この体になった時思ったんだ。これでスネークのための武器になれる。彼の役に立てるなら、たった一発の銃弾でも構わないって。
スネークは、スネークだけは、俺を兵器ではなく人間として扱ってくれたから。俺は物心ついたときから、兵器として、武器として利用されてきた。一番危険な所へ行かされるのが当たり前だった。でも彼は、俺を戦場から遠ざけようとしてくれた。穏やかな幸せを願ってくれた。だから────。
白い雨。
自ら切り落とした右肩から噴き出した人工血液が、周囲を真っ白に染めていく。
振り返った視界の隅に、乗り上げてくる艦首の軌道から僅かに逸れたスネークの姿が見えた。バチバチと全身の組織がショートし、スパークし、停止していくのが判る。既に感覚の残っていない左腕の、砕ける音が遠くに聞こえた。
スネークの為に、死にたいんだ────。
結局、俺がスネークの姿を見たのは、アウター・ヘイブンのマイクロ波の回廊の入り口が最後だった。すべてが終わって回収された俺が再び目を覚ましたとき、彼は既にオタコンと共にいずれとも無く姿を消した後だった。大佐は何かを知っているようだったが、何も言わなかったし、俺も何も聞かなかった。
彼は何も────別れの言葉ひとつ、俺には残さなかった。
いや、言葉では言い表せないほどのものを、俺の中に残して去って行った。
あれから半年。ボロボロだった俺の身体は月に一箇所のペースで、間に合わせの義肢から最先端のパーツへと交換されていった。血量不足、透析不完全の上、ヘイブンに押し潰されたときのダメージが大きすぎて、全てのパーツが修理不能だった。これで生きているどころか、何故動けたのか不思議だと医者も技師達も首を傾げていた。「約束だから」と俺が答えると、皆また、首を傾げた。
実験的なモノで出力が大きすぎる為、一月ほどかけてじっくりと調整し、馴染ませなければならない。ローズやジョンを、うっかり握り潰したりするわけにはいかないのだ。
リハビリを兼ねて松葉杖で公園を散歩する俺の傍には、二人が笑っている。愛しいと思う。穏やかな幸せが、ここには在った。けれども───。
あの、焦燥にも似た熱情。激しい恋慕を感じる相手など、もう二度と現れることはないだろう。
俺には、スネークは守れなかった。守るつもりが、逆に救われた。かえって彼の重荷になってしまった。それでも彼は最期まで、俺の心を、『人間』としての俺を、守ってくれた。俺の幸せを、願ってくれた………。
彼のあの言葉が無ければ、あの優しさに触れなければ、俺はいつか『人間』であることを捨ててしまっていただろう。
スネークの願ってくれた幸せが、今、ここにある────…。
昨日───彼が死んだと聞かされた。遺体は、埋葬さえされなかった。スネークの希望通り、オタコンが何処かの活火山の煮え滾る溶岩の底へ、沈めたらしい。彼は本当に一欠片のDNAも残さず、この星に、空に、還って往ったのだ。
ベンチに腰掛けて、空を見上げた。どこまでも高く、青く、広い空。
少し離れたブランコから手を振っているジョンとローズに手を上げて微笑み返し、ゆっくりと目を閉じて、天を仰ぐ。
───彼を想わない日はない。頬を包む暖かな日差しは、彼の掌。耳を撫でていく優しい風は、きっと彼の囁き。何かに触れる度に、何かを感じる毎に、彼を想う。厳しくも大きく俺を包んでくれた、あの温もりを。
サイボーグだって、不死身じゃない。いつか自分も、原子に還る時が来るだろう。その時、彼に胸を張って会えるように。
きっと俺もスネーク同様、戦う事でしか自分を表現出来ないのだろう。だが、だからこそ『道具』ではなく『人間』として、自分の意思で戦おう───彼の守ったこの世界を、弱者達を守るために。
ローズもジョンも、守るべき世界の一部だ。そしてこの世界すべてが───彼の残したもの。彼に託されたもの。そう思うと、すべてが愛おしかった。今度こそ───俺が、守る。守ってみせる。
だからせめて─────胸の奥で想い続ける事だけは、許して欲しい。
突然、一陣の風が俺の髪を吹き上げる。子供にするみたいに、クシャッと頭を掻き混ぜるように。「仕様のない奴だな」という彼の苦笑が、どこかから聞こえた気がした。
───ああ。俺は、仕様のない奴なんだ。
だが、きっと、負けないから。
だからいつか、笑顔で迎えてくれ────。
乱れた髪を手櫛で整えると、指先にまた、陽だまりのような彼の掌の熱を感じた。俺は覚えず、瞼の裏の彼の面影に微笑んだ────。
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♪2番目に好きな人 3番目好きな人
その人なりに 愛せるでしょう
でも1番に 好きだったのは
私 誰にも言わないけど 死ぬまで貴方
私 誰にも言わないけど 死ぬまで貴方♪
BGMは中島みゆきの「最愛」です♪ そのうちローズが「うちの主人が、死んでしまった昔好きだった人(男)の事を忘れられないみたいで……」とみ○もんたに相談しそうな雷電ちゃん。「奥さん、あなたゼータクだよ! ご主人、良い方なんでしょ!?」と説教されそうですね。
せめてこれくらいのフォローがあれば、私も納得いったんですけどねぇ。何が「最後にすべてのキャラを幸せにしたかった」だ、ふざけるな! スネークもナオミも死んどるやんけ! 雷電も難儀な女とヨリ戻しとるやんけ!(つか、男を誑し込んでスパイする職業を選ぶような女が「マジ惚れ」とか言ってコロリと良い女房になるとは思えんぞ、普通。)
「ま、普通の妻子持ちの男が思いつく幸せなど、所詮はその程度か……○ジマ……案外つまらない男……」と無理やり自分を納得させていましたが。
結局、ライジングでもぜんぜん幸せになってないし、メタルギアは世界中に拡散しまくってるし、家族とは別居してるし、サイボーグ化進んでるし、切り裂きジャックとして覚醒しちゃってるし………(まああれは、自分の過去や人斬りの才能に目を背けず、それを世のため人のため生かすことに目覚めた、ということかも知れんが───とても幸せとは思えんわな。つか、プレイヤーが内容をいちいち好意的に好意的に深読みせにゃならんって、ゲームとしてどうなのよ? アクションゲームとしては秀逸なのかもしれないけど、あのストーリーで「ああ、良かったね、雷電」と思える人間ってどれほどいるの?)。
メタルギア撲滅に一生をかけたスネークの戦いも全否定かよ! 今までのメタルギアは何だったんだよ! 納得いか~~~~~ん!!!!(--メ) 途中で他社に丸投げする位なら、ハナからやめとけよ、コ○マ!!!(怒)
子供もネタに使いすぎだろ。子供使えば何でもOKと思ってないか? オルガの時もちょっと違和感あったけど(私なら抱いたこともないわが子の為に、家族同然の部隊の仲間を全員、犠牲にしたりしない。ましてやあんな戦場で生まれ育ったクールな女なのに)、ローズも「子供を守るため」とかいって大佐と偽装結婚て、何だよそれ。雷電が流産と離婚でどれほど傷ついたと思ってるんだ! 雷電がグレてて相談できなかったとしても、キャンベル経由でスネークやオタコンに連絡してノーマッドに保護してもらうとか、雷電に説教してもらうとか、色々あるだろうが! MGS2でもそうだったが、基本的に、自分の目的のためには自分を愛してくれてる相手ですら「仕方なかったの」と言い訳しながら騙くらかす最低女。やっぱり別れた方が良かったと思う。雷電がMGS2のあとしばらくヤサグレてたってのも、それまでにローズが散々ついた嘘と、不味い料理のせいじゃないのか?(メシがマズイと、人間、心が荒むからね。だから軍艦のコックは腕がいいんだ)
更にライジングでは「子供達の脳」って……そりゃあ勿論、許されないけど、何だかなぁって感じ。「子供と動物出しときゃ視聴率OK!」な低脳お茶の間番組じゃないんだからさ。チャイルドソルジャーだった雷電が「子供」に拘るのは判らんでもないが、もうちょっと考えて欲しかったな。
さてMGS4での雷電のサイボーグ化はめちゃめちゃ腹が立ちましたが、ホワイト・ブラッドにはちょっと萌え。白い体液って……ねぇ? サイボーグ化せず、血液だけホワイト・ブラッドにして欲しかった。そうすれば激萌えだったのに……。
「強制フェラ!吐くまで飲ませろ!(1回目のヴァンプ戦の後、ヘリで吐いた時)」とか、「ぶっかけ100連発!(アウター・ヘイブンに押し潰されそうな時)」とかのAVのキャッチコピーが頭に浮かびましたですよ。ごめんね、雷電……。
あと、個人的にはスネークたんが最後に煙草やめちゃったのがショックでした。まあ、あれは「煙草でも吸わなきゃ、やってられるかい!(怒)」という状況が終わったよ、と言うことかもしれませんが。「煙草が健康に悪い」なんて、地球温暖化と同じくらい怪しいネタなのに(T_T)……最期まで葉巻銜えてた裸蛇たんの方がイイ男に見えたよ……。
先日の「風立ちぬ」騒動でもアホか、と思いましたがね。次元○介とか、ワンピ○スのサ○ジとかには騒がなくていいのか? スモー○ー大佐(今は准将? 中将だっけ?)なんか、更にすごいぞ? ワ○ピースなんか、ガキンチョが目にする率めちゃめちゃ高いだろうが……。
ともあれ昨今の嫌煙ファッショで、更に自殺率は上がるだろうなぁ……。うちは大阪の中小企業の町にあるので地域の喫煙率が高く、よその地域よりはかなりマシ(全面禁煙の飲食店はよほどの大手か、安い店以外はすぐ潰れる)なのですが、東京23区とか関東の観光地は大変みたいですね。嫌煙家の人たちは煙草がアンリ・マユだとでも思っているのでしょうか? ……原発とか、TPPとか秘密保護法案とか、他にもっと怒るべき事は、幾らでもあるだろうに………。G○Qの3S政策の成果には、愛国者達もビックリだね!
結局、メタルギアシリーズは、ゼロ少佐とオセロットの「裸蛇萌え!」による壮大なヤンデレVSツンデレ物語だったってことですか? 「本物は強制的に眠らせて誰にも見つからないところに隠しちゃうもん! でもやっぱり普段から見れないのは寂しいから、観賞用にコピーも作るもん! そうすれば子供の頃の裸蛇ちゃん(のソックリさん)も見れるし~~」って、どんだけヤンデレなんだよ……ゼロ少佐。そしてその裸蛇たんのためには世界中破滅させてもOK!ってどんだけツンデレだよ、オセロット……。裸蛇も、どんだけ魔性の男だよ……。戦場で出会った相手は全部、死ぬか「裸蛇ファンクラブ入り」の二択って、究極の選択だな、おい。
確かに裸蛇たん、やたら食い意地はってたり、すごい朴念仁だったり、お茶目で可愛いけどさ……。もしかして裸蛇たんが朴念仁じゃなければ、歴史は全然変わっていたのか? 「朴念仁」と「食いしん坊」が裸蛇たんの2大萌えポイントだが……蛇三兄弟が無念すぎるだろ、それ。