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■ Profit from things (3) ■
悶々と考えた末、その夜、俺は真夜中にこっそりと病院の看護婦の控え室に忍び込んだ。ちょうど今日の夕方届いた、オタコンの手配した「医療支援」の物資が院内のあちこちに積まれていて、予備のナース服も大量に看護婦の控え室に搬入されているはずだった。小さなペンライトを口にくわえ、音がしないように気をつけながら、控え室の奥に3つ積まれたダンボールを開けてみる。
1つ目の箱はナースキャップと白のストッキングだった。1つずつ取り出して、元通りに綺麗に閉めておく。既に中身の確認のために開けたのだろう、ガムテープの封が切られていて助かった。2つ目がお目当てのナース服だった。以前シルクのキャミソールをプレゼントされた時は確かXXLだったので、箱の底を漁って俺はXXLのナース服を引っ張り出した。
さすがにサンダルなんかはサイズないだろうな――。
思いながらダメモトで3つ目の箱を開けてみる。見るからに女物のサンダルが乱雑に詰め込まれていたが、隅の方に明らかに他より大きいのが1足だけ入っていた。取り出して試しに足に合わせてみると、ぴったり入る。
ごめん。あとでちゃんと返すから。
頭の中で誰にともなく謝りながら俺は3つのダンボールを元通りに戻し、「戦利品」を抱えてコソコソと控え室を出た。一瞬、このままスネークのところへ行こうかとも思ったが、院内があまりにも静かなのでやめにする。こんなものを持って彼のところに行ったら――――ナニをする羽目になるかくらいは、予想がつく。時間がたてばバレる可能性が高くなるのは判っているが、いかに「旅の恥はかき捨て」でスネークの怪我が治るまでしかここに居ないとはいえ、そこまで羞恥心は捨てられない。
とにかく、あとは明日にしよう。
俺は赤い顔のまま、逸る心を抑えて仮住まいである院長の家へと踵を返した。
翌日、俺は朝食のあと久しぶりにゆっくりと風呂に入って、身体の隅々まで綺麗にした。以前はカラスの行水で、汗と埃を流せば終わりという感じだったし、オアシスの傍とはいえ、この辺りでは水が貴重なのは判っているのだが。スネークは脇の下や膝の裏、足の指の間なんかまで舐めたりするし――また何故かそういう場所は妙に感じてしまう――ので、申し訳ないとは思いつつも、爪先まで気が抜けない。
朝の回診が終わる時間を見計らって病室に行くと、スネークは昨日の本を開いて両目の上に載せたまま横になっていた。うたた寝でもしているのかもしれない。それなら好都合だった。
静かにドアをロックして、部屋の隅のパーティションの陰でナップザックから昨日の戦利品を取り出す。これから自分のやろうとしていることを考えると頬が高潮し、熱く湿った溜息が漏れた。意を決して、くたびれたTシャツとジーパンを一気に脱ぐ。それから音がしないように気をつけながら薄いピンク色のナース服をビニールの包装から引っ張り出した。
襟元とウエストのボタンを外し、すっぽり被って身に着けると、濃い色のビキニがくっきりと透けて見えている。ストッキングを穿いたら中でゴロゴロしそうだし、どうせ「この格好にコレはないだろうが!」とすぐに脱がされるに決まっている。
ニューヨークのアジトになら、前にキャミソールと揃いで着せられた白のシルクのTバックとかがあるのだが。ここでも市場に行けばそれなりに色々売っているのかもしれないが、さすがにそんなものを堂々と買う勇気はない。少し悩んだが、結局、無粋な男物の下着も取った。
次に白のストッキングを穿く。ローズがどんな風に穿いていたか思い出しながら、片足分ずつ指先で丸めて足先を入れ、踵まで、膝まで、それから太腿まで、腰までと少しずつ引っ張り上げていく。手順はウェットスーツと似たようなものだが、破ってしまわないように慎重にしなければならない。予備までは用意していないのだ。スベスベしているのにキュッと締め付けられる感触は何だか妙にエッチで、女っていつもこんなの穿いてるんだなぁ、とちょっと感心した。
最後にバックバンドのナースサンダルを履き、ぺちゃんこに畳まれたナースキャップを拡げて頭に乗せる。ヘアピンが要ることに今更ながら気付いたが、さすがにそこまでは気が回らなかった。
まあ別に動き回るわけじゃないし……って、結構動かなきゃいけないかも。
服装を整えることに集中して忘れていたが、これからやろうとしていることを思い出してまたカァッと頬が熱くなる。
―――これで機嫌を直してくれなかったら、もうどうしていいか判らないけど。
とにかく、やってみるしかない。
俺は大きく深呼吸してから、パーティションの影から顔を出した。スチール製のポールをぎゅっと握り締めて、囁くように声を掛ける。動悸が激しい。
「――お、い……スネーク? 寝てるのか?」
「んぁ? 起きてるぞ。さっきから何をゴソゴソ――――」
意外にもすぐに返事を返して、スネークは顔の上に開いていた本を右手で持ち上げながらこっちを向いた。ナース服を纏った俺の姿に、ヒュウと口笛を吹く。
「なかなか似合うじゃないか。どうしたんだ、それ? 誰かに借りたのか?」
「か、借りれるワケないだろ! ――昨日届いた奴を、勝手に拝借してきた」
「例の支援物資か。そいつはナイスなタイミングだったな」
ニヤニヤ笑う顔も揶揄うような声音もいつも通りで。良かった、もう怒ってないみたいだ。ホッと肩の力が抜けて、俺は思わず顔を綻ばせた。
「これで――機嫌、直ったか?」
「機嫌?」
スネークは一瞬、怪訝そうな顔をした。それから合点がいったようにニヤリと笑って、徐に頷く。
「ああ、勿論だ」
「あの……悪かった。俺、勘違いして――――せっかく治りかけてたのに」
「あれ位、どうってことないさ。だがまあ、俺じゃなかったら、お前の殺人パンチで何回死んでるか判らんな?」
「そんな―――」
からかわれて思わず困ってしまう。今まで彼が俺に手を上げたことはほんの数える程しかない(それも殴られて当然だと思える理由があるときだけだ)が、俺が勝手にキレて彼を殴ったり蹴ったりしたことは―――かなり、ある。普通ならとっくに、大怪我させて愛想を尽かされてても仕方ないくらいに。
「はは、冗談だ。そんな所に隠れてないで、もっとこっちに来い」
スネークは気にする風もなく上機嫌で、俺を手招きした。促されるままに近づいてベッドに腰掛けると、彼は俺を上から下までしみじみと眺めて満足そうに頷いた。
「うん、やっぱり美人は何を着ても良く似合うな。皆に見せびらかしたいくらいだ」
「言うなよ、そういうこと――――」
「何で? 本当の事を言って何が悪い?」
真っ赤になって俯く俺の耳元に指を差し入れて、自分の方を向かせながら少し真面目な声で言う。
「良いとか、悪いとかじゃなくて――――恥ずかしいだろ……」
「いつまでも照れ屋で困った奴だな」
言いながら俺の顎を掬い上げて口付ける。はじめは軽く。段々と深く、息が出来ないくらいに。そうしながら、悪戯な指が首筋から胸元を通って、太腿の間へと滑り降りてくる。内腿を親指でやわやわと揉みしだかれて、ヒクヒクと全身が慄き、熱くなる。
とうとう指がスカートの中に這入ってきて、腰骨を辿り、尾骶骨をまさぐり始めた。その指の熱さに、俺は口付けを続けたまま鼻を鳴らして身を捩った。
「…ぅ、ん…っ…」
「へぇ、下着は着けてないのか。ますますイイな」
スカートの中でさわさわと腰を撫でまわしながら、嬉しそうに笑う。
「だっ…て、色の濃い奴しか持って来てなくて……どうせこの格好に合わないってムリヤリ脱がすだろ、アンタ」
「判ってるじゃないか。ま、合っていようがいまいが、結局脱がすけどな」
キスの合い間に言い訳がましくボソボソと呟くと、スネークがちょっと唇を離してニンマリした。
「───アンタ、やらしい……」
「俺がいやらしくなかったら、お前だってつまらんだろう?」
「人をスキモノみたいに……っあ、ちょ…っ、止せって…っ!」
大きくて暖かい掌が俺の股間を包み込むように押し付けられ、ゆったりと揺さぶられる。ゾクゾクと快感が背筋を走って、俺は慌ててスネークの右腕を抑えつけた。
「ん? まさか見るだけで、おさわりはナシってのか? そんな殺生な」
おどけた様な情けないような声で言いながら、耳や首筋をチュッ、チュッ、と軽く音を立てて吸い上げる。
「あ、だ、だ…から――俺が、する…から…っ……」
「こんなに美味そうなのに、触らずにいられるか」
「で、も……アンタ、身体が……」
「出来るだけ動かなきゃいいんだろ? なら、上に跨れ」
スネークがギプスに固められたままの左手の指先で、チョイチョイと自分の腹を指差す。
「えぇ!?」
「そうすりゃ俺は、手を伸ばすだけでイロイロ出来るだろうが。ほれ」
「あ…そ、りゃ…そうだが……でも……」
促されてベッドの上に身を乗り上げたものの、怪我人の上に跨って腰を下ろすというのはどうにも気が引ける。膝立ちのままオロオロしていると、スネークが焦れたように俺の襟元を引っ掴んで引き寄せた。慌てて彼の顔の横に両手を付いて、辛うじて四つん這いになる。
「――っぶないな! 鎖骨だの肋骨だの、まだくっついてないんだろう!?」
「お前がグズグズしてるからだ。腹と腰は何ともないんだから、遠慮してないでさっさと乗れ」
「っ、わかった!」
仕方なく、スネークの腹の上にそろりと腰を下ろす。すると、布越しにもはっきりと判る熱を帯びたモノが、双丘の谷間にぴたりと収まった。
「…ふ…っ……」
久しぶりにそこに感じる熱さ、堅さに、淫靡な期待がゾクリと全身を駆け抜ける。瞼を震わせて熱い息を付く俺の顔を楽しそうに見つめながら、スネークは片手で俺の腰を引き寄せた。重心が上半身に移るにつれて、彼の熱が会陰部へ、そして更に前へと押し付けられ、互いの昂ぶりが2枚の薄い布越しにぴったりと重なり合う。そのままゴリゴリと捏ねるように。
「…っあ、ちょ…っ…」
「気持ち良いだろ? こうすると、もっと――」
スネークは自分のガウンの裾を乱暴に引っ張り上げ、俺の尾骶骨を引き寄せる右腕に力を込めた。滑らかなのに細かなざらつきのあるストッキングの薄い生地一枚を隔てて、二つの欲棒から滲み出した粘液が微かに、しかしはっきりと、いやらしい音をたてる。わずかに隆起した袷の筋が、更に悩ましい興奮を掻き立てた。
「あ…や、だ…っ……こ、んな……っ…」
「嘘付け。もうこんなにヌルヌルにしてるじゃないか」
「は、あぁ…よ、せ…ってば…っ……」
意地悪く下からも突き上げられ、背を仰け反らせて頭を振った。言葉とは裏腹にそこはピクピクと反応して、自分からも腰を押し付けてしまう。一度動かし始めると、もう歯止めが利かなかった。浅ましく映ると判ってはいても、快感を追うのを止められない。滲み出した粘液はヌチャヌチャと音を立てて、ゆっくりと太腿の辺りまで拡がっていった。
「や…っ…いい……あ、あ、イク…っ…」
「こらこら、こんなモンでイクなよ?」
夢中で薄い生地越しに先端の敏感な部分を擦り付ける尻肉を掴んで、スネークは俺の身体を少し引き上げた。胸元にスネークの顔を抱きかかえるような格好になり、触れ合っていたモノが少し後ろにずれてしまう。
「あ、ん……や…っ……」
思わず咎めるような声を上げて見下ろすと、スネークは悪戯っぽい笑みを浮かべながら手馴れた様子でナース服の胸のボタンを外し始めた。
「ちったあガマンしろ。後でもっと好くしてやるから、な?」
「ぅ、ン…っ…」
目の前の快感を我慢すれば、それとは比べ物にならない位の愉悦を与えてもらえることはもう身体に覚え込まされていて。俺は目を瞑り息を詰めて、彼のするに任せる。スネークはナース服の袷から顔を埋め、時折そこここを軽く吸い上げながら、首筋から胸元へとゆっくり味わうように舌を這わせた。背筋を走る快感に全身が強張り、尻肉の下にヒクつく力強いモノを感じる。
「うん──好い匂いだ。舌触りも──」
「ふ…っ…ぁあ……」
ちろりと舌を這わせてから、スネークは徐に既に硬く勃ち上がった乳首を口に含んだ。チュッ、チュッと音を立てて吸い立てる。何の作為もなく、無心に乳首にむしゃぶりついている顔を見て、俺は何だか幸せな気分になった。我が子に乳を飲ませる母親は、こんな気分なのかもしれない。
「……っ…赤ん坊みたい、だな。そんなに吸っても…何も、出ないぞ?」
「言ったな。いいんだよ、別の所からたっぷり搾り出してやるから」
自分の感慨が妙に気恥ずかしくて揶揄うと、スネークは俺の背中を抱き寄せていた右手を胸元に回して、もう片方をきりきりと摘み上げた。
「い……痛…ぃ…っ」
「ちょっと痛くされてから──優しくされるのが好きだろ?」
身体を強張らせて嫌々と頭を振ると、スネークは楽しそうに乳首を抓り上げていた指と唇とを入れ替えた。じんわりと痛みを残した敏感な部分を、今度は舌と唇で癒すように包み、吸い上げる。
「あぁあ…っ!」
ただ吸われていたのよりも何倍も感じてしまって、俺は思わず甲高い声を上げた。拍子に頭に載せただけだったナースキャップがシーツの上に落ちてしまう。戦慄いて熱い吐息を吐き出す唇をスネークの唇が覆うように塞いだ。そのまましばらく、ぬめる舌を息が苦しくなるほど絡めあう。
「イイ声聞きたいのは山々なんだがな。あんまり騒ぐな」
「ア、 ンタの……せいだろ…っ」
胸なんて、昔はちっとも感じなかったのに。もともとは性感帯でも何でもなかった指や、脛や、脇腹まで、ゾクゾクするほど感じてしまう。彼とするようになってから、自分の身体がどんどんいやらしくなってきた気がする。エクスタシーもどんどん深くなって、最近では終わったあともしばらく朦朧としてしまうくらいだ。――――こういうのを「開発された」って言うんだろうか。初めての男がスネークだったら、俺は女に目もくれず、立派なホモ街道一直線だったかもしれない。
喘ぎ声をなんとか荒い呼吸に抑えてうっとりと快感に酔っていると、スネークの右手がいきなり俺の尻朶を掴んだ。一瞬、期待に胸が撥ねる。彼はそのまま双丘の肉を揉みこみながら、ストッキングの合わせの部分―――つまりアソコに近い部分に、爪を立て始めた。
「…っ、……ぁは…っ…」
汗ばんだ敏感な蕾を薄い布越しにカリ、カリリと引っ掻かれて、抑えようとしてもその度に身体が跳ね上がる。もどかしいのに、強烈な感覚。
一頻り俺を喘がせてから、スネークはおもむろに指先に力を入れた。少しの抵抗の後、小さな音を立てて白いストッキングが裂ける。
「ちょ…っ、バカ…ッ」
「何だ、洗って返そうとでも思ってたのか? こんなコトに使っておいて?」
うろたえる俺の耳元に口付けながら、クックッと低く笑う。その振動にすら感じてしまって、俺は唇を噛み締めた。
「構わんだろう。オタコンのことだ、予備くらい入れてる」
「でも、何も破らなくても……」
「『でも』、早く触って欲しかったんだろ? ここ……」
「ぅあ…っ…!」
小さな裂け目から入り込んだ指にそろりと撫で上げられて息を詰める。じっとりと汗に湿ってはいても、潤んではいないそこは、ジンジンと疼きながらも侵入を拒んだ。スネークは焦るでもなくそこの感触を楽しむようにゆっくりと揉みこんでくる。
「相変わらずキツイな」
「…ん…っ…バカ……」
「おい。ケツ、こっち向けろ」
「え…?」
「濡らさなきゃ痛いだろうが。ん?」
スネークがぺろりと舌を出す。意図に気づいて顔にカァッと血が昇る。
「よ、よしてくれ、そんな……」
69はたまにはするが、お互い横になってとか俺が下でとかで何となくそうなるのであって……自分から上になってしたことはない。何かそれって──すごく淫乱っぽいじゃないか。
「遠慮するな。ローションなんて気の利いたもの、ここには無いからな」
「だ、だが――いや、やっぱりいい。ちょっとくらい、痛くても平気だ」
「あのなぁ。締まりが良すぎてこっちまで痛いんだ。ほら、さっさとしろ」
汗ばんだ尻肉をバチンと少し強めに叩かれて、俺はおずおずと体勢を入れ替えた。何度もしているとはいえ、そこを間近で見られるのはやっぱり恥ずかしい。しかも真昼間の明るい病室で、女の格好をして、なんて。
「あ、あ、ダ、メ…っ…」
指先でグッと押し開かれ、ぴちゃ、ぴちゃと猫がミルクを舐めるような音を立てて、暖かくぬめる舌に敏感な粘膜を擦り上げられ、焦ったような声が出てしまう。
「……ぁ……ぁ……ぁあぁ…っ……」
垂れ落ちるほどにたっぷりと唾液をまぶしてから、表面を擽るように軽く転がしては、尖らせた熱い舌先をねっとりと差し入れられる。ずっと憧れていた『伝説の傭兵』にそんなところを舌と唇でされるのは、いつもたまらなく恥ずかしくて申し訳なくて。でもだからこそ、達する時とはまた別の、全身が蕩けてしまいそうな快感だった。愛されている、と強く感じる。俺は息を乱しながら、スネークのしやすいように腰を後ろに突き出し、そこの力を緩めた。
「…ん、ぁ……ぁう……ぅふ……ぅ……」
時折とろり、とろりと太腿を垂れ落ちていく唾液の感触と、くちゅくちゅと聞こえる水音が、理性を押し流していく。舌先と指が探るように少しずつ、きつい肉の輪を押し拡げて、中へ中へと入り込んでくる。少し伸びた硬い不精髭が内腿に擦れるのにすら、全身が戦慄く。
「……おい、俺のも───」
促されてうっとり閉じていた瞳を上げると、反り上がって先端から透明な雫を滲ませた屹立が目に入った。迷わず手を伸ばし、舌を這わせる。全体にたっぷりと唾液をまぶしてから、亀頭の柔らかな部分だけを唇に含んだ。口の中に濃い海の香りが広がる。
「…ん…っ…ぅん……ん、む……」
両手で扱きたてつつ鰓の下や割れ目を一心に舐め、滲み出してきた少しぬめりのある液体を、チュウチュウと音を立てて吸い上げる。時折、裏筋を唇で揉み、舌を這わせた。彼のモノが、自分の与える刺激で量感を増していくのが嬉しい。俺は狭い器官の入り口を優しく拡げられていく快感に鼻を鳴らしながら、夢中で彼の剛棒を高めた。
「……ぁあ……スネーク……好き……」
チュ、チュ、チュとそこかしこにキスして頬を摺り寄せると、彼の腰がぴくんと跳ね上がる。
「……っ。あぁ、くそ、もう駄目だ。入れたい」
珍しく、先に音を上げたのはスネークの方だった。尻肉の丸みを撫で擦り、緩く唇を落としながら俺の上体を引っ張り上げる。彼の右腕に促されるまま、俺はまた向き直って膝立ちで彼の腹の上に跨った。
「何? 最近早くないか?」
「───お前があんまり可愛いことばかりするからだ」
苦笑いのような表情を浮かべて、唾液と彼の先走りの液でドロドロになった俺の口許を手の甲で拭ってくれる。
「確か引き出しに、痒み止めの軟膏があるはずだ。そろそろギプスが痒いだろうって、ナオミが置いてった。何も塗らないよりはマシだろう」
けだるい腕を伸ばして、スネークが顎で示した場所を探ると、白地に何かアルファベットと数字の書かれた軟膏のチューブが入っていた。もどかしい思いでキャップを外し、たっぷりと指の上に載せる。待ちきれない思いで唾液に塗れたそこにあてがい、2本の指ごと中に押し込むようにして塗り込めた。
「っあ、ぅん……っ」
そのまま自分の指で、めいっぱい届くところまで塗り拡げる。メンソールが入っているのだろう、少し熱いような冷たいような感覚が内側の粘膜に拡がった。
「も…入れて、いいか……?」
「ああ。───っと、これ噛んでろ」
ベッドの上に落ちたままだったナースキャップを手渡される。挿入時にうっかり大きな声を出してしまわないように、ということだろう。俺はそれを握り潰して口に銜え、トロトロに蕩けた蜜口に彼の肉柱をあてがった。待ち侘びているそこがピクピクと喘ぐ。
「ンン…ッ…」
「───ゆっくりだぞ。久しぶりなんだから」
スネークの言葉に、一気に奥まで貫いて欲しい衝動を抑えて、俺は少しずつ腰を落とした。狭い輪状の筋肉がジワリ、ジワリと拡げられていく。身の内で、肉の軋む音がする。確かにその抵抗は、毎日のように受け入れている時よりもかなり大きい。
「…ン…ン…ン…ンンゥッ!…ン…ゥ…ッ……は…っ…はあぁ……」
だが一番太いところさえ飲み込んでしまえば、あとは比較的スムーズだった。根元まで咥え込んだところで、噛み締めていたナースキャップを離す。満腹感にも似た充足感に満たされ、俺は大きく口を開けて喘いだ。スネークの温かい掌が、俺の頬を優しく撫でる。
「──大丈夫か?」
「…っ…アンタこそ、大丈夫なのか? 折れてる所とか……」
「ああ、何ともない───だが流石に、動くのはまだ無理だな」
メチャメチャに突き上げてやりたいところなんだが、と悔しそうに唇を尖らせる。
「判ってる……アンタは、そのまま、動かなくて良いから……」
両の掌で尻朶を持ち上げて、俺はゆっくりと、尻をくゆらせた。あんまり振動を立てちゃ骨折した部分に響くだろうし、激しく動かすには、まだ少しきつい。ニチ、ニチと小さな音を立てて、ねっとりと捏ね回す。そうして中の肉が段々と、スネークのモノの大きさに馴染んでくるのを待った。
「…っは……あぁ……あぁ……」
時折、鰓の部分が弱い所を掠める。野太いものを受け入れてぎりぎりまで薄く引き伸ばされた入り口を、浮き立った血管に、剛い叢に、擦り上げられる。俺はスネークの顔の両側に腕をつっぱって、下半身を動かすのに没頭した。
「…ん…ぅ…ぅん…あ、ん…あっ……」
そこの肉が緩んで来るのと同時に、自然に腰が跳ね上がり始める。だが上下の動きを大きくすると途端にベッドがガタガタと大きな音を立てて、俺は慌てた。それでももう、小刻みな刺激では我慢できない。もどかしい。
───音を立てないで、もっと激しく出し入れしたい。
無意識に、さっき擦りつけあった時みたいに腰を前後にスライドするようにする。漸く、注挿が少し大きくなり、ベッドの軋みが小さなものになった。普段はお互いに動かしているからこれ位でも充分な筈だったが、今は俺だけなので、自分の腰の動きだけでは、まだ物足りなかった。
「んっ…んっ…や、だ……もっと…っ…」
身悶えるのを見かねたスネークが、俺の右腿を軽く叩いた。
「───おい、ちょっと足をギプスの上に乗せて、右手を後ろで突っ張ってみろ」
少し躊躇したが、ごつい石膏のギプスだから大丈夫だろう。言われたとおりにすると、確かに両膝をベッドについているより、片方だけでも足裏で踏ん張れる分、動きやすい。俺は夢中になって、彼のモノを咥え込んでいる部分を前後左右に大きく滑らせた。離れてしまう直前まで引き出しては、角度を変えて奥の方まで迎え入れる。閉じかける狭い孔道が、再び力強く押し拡げられる瞬間がたまらない。
「っあ、あ、い、いぃい…っ…!」
一気に快感のボルテージが上がる。スネークの右手がスカートの中に伸びて来て、絶え間なく涎を垂らしている俺のモノを扱き始めた。身体の奥の、女になれなかった部分を彼の肉柱が押し潰すたびに、とぷ、とぷ、と小さな水音を立てて透明な粘液が溢れ出る。
「…っあぁ! …くっ、ぅ…ぅん…っ…!」
思わずスネークの身体に覆い被さって身を揉んだ。つい分厚い胸に縋り付きたくなる衝動を、枕に左腕を突っ張って必死に堪える。早く肋骨だけでも直ってくれればいいのに、と頭の隅で思った。普段のスネークなら、力一杯抱いて、抱き締められて、それだけでも心が満たされるのに。
俺の欲棒を扱いている彼の右手に指を絡めて解き、互いの掌を合わせてしっかりと握り締めた。ソコへの刺激なんかなくても、身の内に彼の存在を感じているだけで、達してしまいそうだった。
「…っあ、も……イ、イク……い、い……?」
内側から渦巻き迸る波に、浚われてしまいそうだ。縋るような気持ちでスネークを見つめると、彼も荒い息をつきながら目線で頷く。身体のあちこちが、意思とは関係なくブルブルと震えだした。
「…っひ、ぃ……いぃいぃぃぃぃ─────っ!」
噛み縛った歯の間から、恥かしい声が漏れた。後ろで突っ張っていた手で、慌てて口許を覆う。途端にズン、と結合が深まって、堰が決壊するように一気に絶頂へと押し流された。
「ン、ンゥウウゥゥゥ─────ッ! …ウ、ウ、ウ、ウゥゥ……!」
ぐぐぅっと背筋が弓なりに反り返り、全身が硬直した。受け入れている部分の肉だけが激しくうねって、ギュギュウッと彼の剛直から男のエキスを搾り上げる。互いの肉棒が跳ね上がり、熱い飛沫を散らす。腸壁に溶岩のような迸りを感じる。
俺達は息を詰めて、その真っ白い飛翔の瞬間を共有した。
互いに舌を絡め、頬を擦り合わせ、耳元に口付けながら、荒い呼吸を整える。ようやく少し余韻が収まってきて、俺は自分が彼の上に突っ伏してしまっているのに気付いて慌てて飛び起きた。
「……っ、悪い、大丈夫か?」
アバラの折れている辺りをそっと指先で触れると、スネークは優しい微笑を浮かべる。
「───大丈夫だ。天使ってのは、羽根より軽いもんだからな」
「!? て、天使って……あのなぁ、俺は昔、『白い悪魔』って呼ばれてたんだぞ?」
「堕天使は悪魔になるんだろ? じゃあ、悪魔が天使になることがあってもおかしくないさ。なにせ俺が今ここで、こうして生きているのは、お前って天使のおかげだからな」
目を閉じて、互いに握り締めていた俺の手の甲に口付けながら、そんなことを言う。俺は恥ずかしくて、でもとても幸せな気持ちで、今度は体重をかけないように注意しながら彼の分厚い胸に頬を摺り寄せた。
「――――よく言うよ、もう……」
「それに今はまさに『白衣の天使』だろう? ちょっとピンクがかってるが、やってることも『ピンク』だし、ちょうど良い」
おどけたように笑いながら、旋毛の辺りに軽くキスをしてくれる。それから俺の髪に顔を埋めたまま、耳に沁み入るような低い声で囁いた。
「ホントにな……何でお前が俺なんかのところに居るのか、信じられん位だ」
「スネーク――――信じられないのは、俺の方だ……」
俺達はもう一度、どちらからともなくゆっくりと接吻を交わした。
俺がナース服からいつものTシャツとジーパンに着替えてパーティションから出ると、ちょうどスネークが煙草に火を点けているところだった。
「あれ? もう吸ってもいいのか?」
「粘り強い交渉の結果、1日3本だけは何とかお許しが出た」
煙草を蒸かす彼の姿を見るのは本当に久しぶりで、俺は自然と顔が綻ぶのを抑え切れなかった。そんな俺の様子を、彼が不審そうに見つめる。
「? 何がおかしい?」
「ん、いや。『スネーク』ってカンジだ。やっぱりアンタは、タバコの臭いがしないとな」
消毒液の匂いのスネークなんて、もう見たくない。ワゴンの天板に置かれた携帯灰皿を取ってやろうとして、ふと、そこに置かれた文庫本が目に入った。
「ずっと何読んでたんだ?――――『難易度AAAの頭の体操』?」
「ああ、病室内は電子機器はダメだって言うんで、暇つぶしにオタコンが持って来たんだがな。なかなか難しくて面白い。結構ハマるぞ」
そういえばスネークの機嫌が悪かったのは、この本を読んでいる時だった。それ以外の時はいつも通りで───。
「………まさかとは思うが、もしかして、昨日すごく不機嫌そうだったのは――――」
「ん? もうちょっとで解けそうなのに、お前がゴチャゴチャ話しかけてきたから」
「ま、また騙したな! お、俺はてっきり怒ってるんだとばかり――!」
そうでなければ誰が、泥棒みたいな真似してまで、看護婦の女装なんてするものか。俺が真っ赤になって詰め寄ると、スネークはカラカラと笑った。
「ははは、お前が勝手に誤解したんだろうが。一昨日のことなら『構わん』と言っただろ? 鎖骨なんざ、もう何回折ったか覚えていない位だ。元々ズレてたんだろうさ」
「ズルイじゃないか! 俺が勘違いしてるのに気付いてて、その上で利用したんだろ! えぇと、そういうのをな、確か――」
確か、この前見た法廷モノの映画で言ってた。そう、確か――――。
「そういうのをな、『未必の故意』って言うんだ! この嘘つき!」
「おお、難しい言葉をよく覚えたな。偉い偉い」
「っ、子供扱いするな、バカ!!」
なんだかんだと宥められて、結局、俺はスネークの腕枕で添い寝していた。いつもと腕が反対なのと、狭くて仰向けになれないのが難点だ。それでも久しぶりに触れ合って横になり、指先で髪を撫でられる感触が心地良い。しばらくそうしていると、スネークが徐に口を開いた。
「────退院したら、ゆっくり湯治にでも行くか」
「とうじ?」
「いわゆる温浴治療だ。温泉に入って美味いもん喰って、ゴロゴロしてりゃいい。どうせ退院したからって、すぐ元通りってわけにはいかないからな」
「まあ、そうだろうな。で、どこに行くんだ? 治療用のスパなら、ドイツとかが有名らしいけど」
「ドイツか───温泉とビールは良いんだが、メシがなぁ。喰いモンが美味いのはやっぱり、南仏かイタリア、日本だな」
何週間も滞在するわけだから、喰いモンが美味くてバラエティに富んでるところの方が良い。
「なら、俺も行く」
「そうだな───じゃあ、日本にするか」
「何で?」
「前から思ってたんだが、お前はどうも、銃器より刃物、特にブレード系の方のセンスが合うようだからな。一度きちんと道場で基礎を身につけておいても、無駄にはならんだろう」
日本刀と手裏剣術くらいは、やっておいて損はないんじゃないか? 役に立ちそうになければ、俺とのんびり風呂に入ってれば良いし。
「日本の剣の道場って、あの、フェンシングみたいなお面と革の鎧みたいなの着て、割れた竹でやるやつか? あんなの動き難いし、あんまり実戦的じゃない気がするが───」
映画の中で見た日本の剣道の試合の場面を思い出して、俺は首を傾げた。
「それは『剣道』だろ。スポーツの一種だな。殆どが敗戦時にアメリカ軍に潰されたが、田舎の方ではまだ、サムライがやってた実戦的な『剣術』の道場が結構残ってるらしいぞ。本物の日本刀も使うそうだ」
「そうなのか?」
それならちょっと、覗いてみてもいいかもしれない。『七人の侍』とか『椿三十郎』とかみたいな刀の使い方をするんだろうか? 俄然、興味が湧いてきた。
「それって、温泉の近くにあるのか?」
「いや、日本は世界有数の火山国だから、温泉は日本中にある。良さそうな道場を見つけて、その近くの温泉に行けば良い。日本なら、メシは何処でも美味いしな。ちょっとばかり、量が少ないのが難点だが」
「そうか───うん、楽しみだ」
枕にしていたスネークの腕に頬擦りしながら笑みをこぼすと、彼も笑って大きく頷く。
「ああ。俺も楽しみだ」
───お前のユカタを脱がすのがな。
そう言ってニンマリ笑うスネークのほっぺたを、俺はピシャリと叩いてやった。
ナオミのささやかな結婚式も済み、ようやく今日は待ちに待ったスネークの退院の日だ。この後は病院の車で首都まで行き、そこからイスタンブールに飛んで一泊、翌日にナリタ、クマモトの予定。スネークはまだ松葉杖なので、移動がちょっときついようならそれぞれの空港の近くで宿を取ればいい。
院長やスタッフ達に挨拶も済んで、後はもう出発するだけなのだが。オタコンがさっきから、病院内をちょろちょろと動き回っている。何か探し物のようだ。
「おっかしいなぁ。どこ行っちゃったんだろ……」
「何してるんだ? どうかしたのか?」
途中で病院のスタッフを拾って首都まで一緒に行く約束なので、あまり出発を遅らせるわけにもいかない。俺は首をかしげて一人でぶつぶつ言っているオタコンに声を掛けた。
「うん。スネークの退院祝いにと思って、君のサイズのナース服一式、医療支援の物資と一緒に注文したんだけど。それが何処にも見当たらないんだ。荷物が着いた時には、確かにちゃんと有ったのに」
「あ……! あれって────退院祝い、なのか?」
ナース服って、ナース服って、こないだ俺が盗んだアレか? 俺用? 道理でサイズがぴったりだと思ったら───服どころかサンダルまで俺のサイズだったことを、もう少し疑うべきだった。アメリカならともかく、この辺にそんなデカイ女はいないんだから。
スネークに「どうせこんなことに使っちゃ、返せないだろ。記念に貰っとけ」と言われ、それは小さく畳まれてジーパンの間に隠され、こっそりと俺のディバッグの底に入っていた。
「君があんなの着るわけないだろうけど、スネークに妄想だけでも楽しんでもらおうと思ってね。まあ、シャレだよ、シャレ───って、雷電、何か知ってるのかい?」
実は妄想だけで済んでないからシャレにならない、と説明するわけにもいかない。俺は真っ赤になって口をぱくぱくさせて、とりあえずオタコンに頭を下げた。
「…あ…う…その…………す、すまない───」
「───って、……え? まさか、もう……?」
俺の態度から何かを察してしまったらしいオタコンの顔も、徐々に赤く染まっていく。互いに瞳を見合わせて、既に車の後部座席に座っているスネークに、ちろりと視線を巡らせた。
「───おう、有難く使わせてもらったぞ。さすが相棒、ナイスなタイミングだった」
悪びれる風もなく親指を立てて拳を握り、G.J.サインを寄越したスネークに、俺達は二人揃って深い溜息をついた。
はふぅ。やっと終わりました。ちょっとシリアスぶりっ子してみたかっただけなのに……。初の続き物。眠り姫なスネークたんと、ナースエンジェルな雷電ちゃんはこれで完結です。俺っちにしては長編だった(でもアーセナル以降を大改編は更に長々とエライことに……)。剣術とかあまり詳しくないんで、多分日本編は書かないです。