「あのなぁ雷電。いい加減に、ここ開けろ」
おそらく無駄だと思いながら、スネークはダイニングの扉を力なくノックした。
まったく、一体、何だって言うんだ。
数時間前に帰ってきたら、この始末だった。何度声を掛けても、脅しても賺しても、雷電は「ちょっと待て」と言うばかり。ダイニングキッチンに閉じ篭り、どうも何かを作っているらしいのだが、時折ガシャガシャ、シュイーン、ドカーンと物凄い音が聞こえてくる。そして……鍵を開けてくれない。
安アパートのボロい扉なんぞ一蹴りでノックアウト出来るが、結局自分が修理する羽目になるのは目に見えている。それに何より、無理矢理強行突破でもしようものなら、雷電の機嫌を直させるのはドアの修理の百倍も骨の折れる仕事だろう。
スネークは聞こえよがしに(といっても雷電には聞こえないだろうが)大きな溜息をついた。締め出されてからいつものトレーニングもシャワーも済ませてしまったし、普段は暇があると煮込み料理だのデザートだの作ってやるのだが、キッチンが使えないとなると、後は寝るくらいしかやることがない。
やはり多少不便でも、田舎に一戸建てでも買うか。ここじゃ犬も飼えないしな。
ジェシーの教育上も、のどかな所で犬でも飼ってのびのびと育ててやったほうが良いだろう。
田舎の白い一軒家、広い庭で犬と一緒にジェシーが駆け回り、ハンモックで昼寝する自分の隣にはもちろん……。
へにゃりと自分の顔が崩れたのに気付いて、スネークは慌てて自分の頬をはたき、口元を掌で揉んだ。イカン、イカン。何を考えてるんだ俺は。
仕方なくすごすごと寝室に戻る。もともと自分一人の隠れ家で、オンボロで隙間風は吹くし、単身者用なので1戸あたりの部屋数も少ない。大家は人の良い老夫婦で、ちょっと大丈夫かと思うほど身元もろくに調べず(色々偽造して用意してあったのに)、あっさりと部屋を貸してくれた。最新式の綺麗なマンションより、こういう所の方が身を隠しやすいのだ。セキュリティシステムがあるとどうも落ち着かないのは職業病かもしれないが。
色々な人種が住んでいるゴチャゴチャした下町で、身元のよく判らない連中が昼間でもウロウロしている。ちと物騒だが、逃亡者にとってはうってつけだ。フィランソロピーの事務所にも結構近い。ボロいおかげで外の気配や異変も察しやすい。雷電のアノ時の声が外に漏れそうな(というか、多分漏れてる)のが、ちょっと難点だが。
とにかく、今は部屋数の少なさがネックだった。ダイニングを締められてしまうと、入れる部屋は寝室とバスルームとトレーニングルームにしている物置だけなのだ。パソコンもテレビも暇つぶしに読む本も、全部ダイニング。せめて寝室にもパソコンかテレビ位は入れておくべきだったかと思いながら、スネークはベッドに腰を下ろした。ふて寝でもするかと横になった途端、玄関の壊れかけのブザーが耳障りな音を立てる。
またか?
スネークは顔を顰めて舌打ちした。今日はバレンタインだとかで、町で雷電を見かけて一目惚れした女の子が何処をどう調べたのかプレゼントを持ってすでに3人もやって来ているのだ。あまり美形なのも一苦労というところか。
雷電に取り次ごうとしたが、「外に『プレゼントお断り』って貼紙してゴミ箱でも置いとけよ」とケンもホロロ。流石にそれはあんまりだろうと、スネークが丁重にご遠慮願ったのだが。女の子達に悪気はないとしても、こう何回もとなると段々腹が立ってくる。締め出し食らった上に何で俺が頭下げなきゃならんのだ。
「どちらさん?」
やはり引っ越すべきだなと思いつつ大声で誰何すると、何を言っているかはよく判らないが女の声が聞こえた。やっぱり、と溜息をつきながら、念のためM9を腰の後ろに挿し、魚眼レンズもないので仕方なく薄くドアを開けて様子を見る。
……へぇ。悪くないな。
ウェーブのかかった栗色の髪に、栗色の大きな瞳、健康的なピンクの肌にあまり露出のないベージュのパンツスーツ。かなりのカワイコちゃんだ。背も高くなく低くなく、程良く肉のついた抱き心地の良さそうなプロポーション。何より少しオドオドしながらもきちんと背筋を伸ばしてこちらに頭を下げる仕草が好感が持てる。
思わず以前の調子でナンパしかけるのをぐっと抑えて、スネークは口を開いた。
「何か用か? お嬢さん」
「あ、あの……。あの、こちらに親戚の方、いらっしゃいますよね? 金髪の、若い……」
やっぱり4人目か。スネークはまたしても溜息をついて天井を見上げた。話したのは多分、大家だろう。奥さんは良い人だけどおしゃべりだから。
雷電は表向きは、俺の甥っ子だと言ってある。離婚で慰謝料ふんだくられて金も仕事も住む家もないし、両親も既に故人なので叔父の俺を頼ってきたと。何だかんだ言ってもこの国では同性愛者は差別されるし、別にカミング・アウトしてゲイのコミュニティに入りたいわけでもない。奥さんが同情して色々とジェシーの世話を焼いてくれるのでちょっと心が痛むが、まあ、そうそう嘘をついている訳でもない。
「悪いが、バレンタインのプレゼントなら、お断りだそうだ」
「そんな……」
涙ぐまれてスネークはガリガリと頭を掻いた。こういうのは苦手だ。まあ、とにかくそういう訳だからとドアを閉めようとすると、ドアの隙間に彼女の持っていた紙袋がガサリと突っ込まれた。
「あのっ!……渡すだけでも、お願い出来ませんか?」
「いや、すまないが、他の子達にも持って帰ってもらった。君のだけ受け取るわけにはいかない」
感触としては多分、毛糸。マフラー……いや、大きさから言ってセーターってところか。手編みとかだと更に気が滅入りそうだ。意外な押しの強さに多少苛立ちながらも、スネークは穏やかに、しかし断固として、その紙袋を押し返した。
「どうしても、ダメですか? あの人に渡したくて一生懸命作ったんです」
「……悪いな。だが、そりゃお前さんの勝手だろう?」
食い下がるのに段々と不機嫌を覆い隠せなくなってきて、半ば強引に扉を閉める。まったく、どいつもこいつも勝手なことばかり言いやがって。
スネークは片手でバリバリと頭を掻きながらもう一方の手で煙草に火を点けた。目一杯吸い込んでから暫く息を止め、ゆっくりと吐き出すと、少し気分が落ち着いた。扉の向こうで泣き出しながら走り去る気配が遠ざかる。女の子相手に、ちょっと大人げ無かったか……面倒臭くて腹が立ったというより……罪悪感かもしれない。沢山の女の子達にこれほど想われている男を、男の自分が独占していることを、責められているみたいだ。……今更どんな相手にも譲る気はないが。
しかし、これ以上女の子達の相手をするのは流石にゴメンだ。スネークは一応ひと声掛けておくかと、もう一度ダイニングに向かった。
「なぁ、おい、雷電。俺は一体いつまで待てば良いんだ? メシ作らせてくれないんなら、喰いに行って来るからな」
殆ど期待はしていなかったのだが。玄関へ踵を返そうとしたところでガチャリと鍵が開いた。やれやれ。
「お前一体何を……」
入りざま言い掛けてぽかんと口を開けてしまった。銜えていた煙草がポトリと床に落ちる。
雷電は半分怒った様な泣き出す様な情けない顔で突っ立っていた。泥遊びをした子供みたいに顔といわず手といわず、全身のあちこちを何か焦げ茶色のもので汚したまま。
「……で、一体何をしてたんだ?」
さっきまでの大音響と雷電の姿から予想はしていたが、部屋の中も凄いことになっている。何とか気を取り直して、スネークは落ちた煙草を拾い上げながらダイニングに入った。ボソボソと雷電が口を開く。
「……チョコレートケーキ……」
「は?」
「作ろうと思って……」
「ああ、デザートのケーキ作ってたのか」
そうとは思えない音だったが。言われてみればテーブルの皿には焦げ茶色の丸いスポンジ状のものが、申し訳なさそうに乗っかっている。物騒にナイフを突き立てられて。
「『30分で君にも出来る!』って書いてあったのに……」
雷電は悔しそうに半分以上茶色くなった白いエプロンを握り締めた。
「お前なぁ。そんなの俺が教えてやるのに何でまた――――」
自慢じゃないが、俺が一緒なら調理とほぼ同時に片付けも終わるのに。一人でやろうっていう心意気は買うが、道具は全部散乱しっぱなし、部屋中にチョコが飛び散って、これじゃ片付けるのが一苦労だ。俺の言葉に雷電が唇を尖らせる。
「何でって、これは、俺一人で作らないと意味ないじゃないか」
「? 何で?」
「……アンタって、時々ものすごく鈍いんだな。今日は何の日だ?」
雷電は呆れたように両手を腰に当てて溜息をついた。今日? 今日は土曜日で、2月14日で、バレンタインデーで……ってまさか。
「……もしかしてそれ、バレンタインのチョコか?」
雷電がこくりと頷く。どうも『バレンタインには好きな男にチョコレートを送る』という日本の風習を、誰かに吹き込まれたらしい(多分オタコンだろう)。それで何とか一人で作ろうと悪戦苦闘してたってわけか。あんなもん、菓子屋の謀略に決まってるのに。コイツは変に律儀なところがあって、一旦思い込むとなかなか頑固なのだ。
しかしまあ、そういうことなら、頭ごなしに馬鹿にしたり揶揄ったりする訳にもいくまい。
「……そうか。悪いな。なかなか美味そうじゃないか」
どう見ても『泥だらけのへたったスポンジ』に伸ばした俺の手を、雷電がぴしゃりと叩く。
「喰うな!」
「ああ、スマン。これは晩飯の後か」
「違う。喰えたモンじゃないんだ。アンタ甘いの苦手だから甘さを控えようとしたら、何回作っても苦いばっかりで炭みたいになっちまって……」
「上にあれ掛けるんだろうが? なら多少ビターな方が――――」
テーブルの上には市販の甘ったるいチョコレートソースが2種類とシナモンパウダーが、殆ど中身の残った状態で置いてある。しかし雷電はぶんぶんと首を振って溜息をついた。
「そう思って、ちょっと掛けて喰ったみた。でも『ビター』どころじゃなく、はっきりマズイんだ」
「じゃ、今から一緒に作り直すか。お互いに送りあうってことで」
「もう材料が無い。トッピング以外はチョコも小麦粉もバターも殆ど全部使っちまった。5回も作り直したからな」
ご、五回? そりゃ買い置きの分なんかすぐに無くなっちまうだろう。フォローの種がなくなってきて、俺は強引にチョコまみれの雷電の身体を抱き込んだ。
「チョコなんかどうでもいい。お前の気持ちだけで充分だ」
「うぅ~~ぅ~~っ」
口付けに応じながらも、まだ納得がいかないらしい。キスの合間に目の端に映るチョコレートソースに、俺の頭の中で悪戯っぽい考えが閃いた。息が続かなくなるまでたっぷりと柔らかい唇を味わってから、おもむろに囁く。
「あのな、雷電。お前にしか作れなくて、時間も材料も殆どいらない、しかも俺がものすご~く悦ぶチョコレートケーキがあるんだが」
「ホントか!? どうやるんだ?」
案の定、奴は途端に喰いついてきた。わざと少し息を吹きかけながら耳元でゴショゴショと、ちょっとエッチな思い付きを耳打ちする。はじめは擽ったそうに首を竦めながら頷いていた雷電が顔を真っ赤にして飛び上がった。
「かっ、か、身体、ト、トッピングって……あ、アンタ何処でそういう変態なコト…っ…!?」
「ん~~? どこでって、まあ、自然発生的に」
「そ、そんなモン、絶対、自然になんか思いつくもんか! 離せ、この変態!」
ポカポカと子供みたいに繰り出されるパンチを避けながら、俺は大袈裟に溜息をついた。
「あ~あ、チョコ喰いたいなぁ。半日締め出されて、キッチン滅茶苦茶にされて、その上何も無しってんじゃ、やってられんよなぁ、まったく」
「う、嘘だ! バレンタインのチョコのコトなんか、頭になかったクセに!」
じたばたと足掻くのを後ろから押さえ込んで、赤ん坊をあやすようにゆらゆらと揺らしながら耳元で囁く。
「そりゃそうだがなぁ。一旦喰おうと思ったモンが喰えないってのは、ツライよなぁ」
「だいたい、そんなの全然チョコじゃないし!」
「ちゃんとチョコ使うぞ? そうややこしく考えるなって。ちょっとした『オトナの遊び』だろ? どうしても嫌なら仕方ないがな」
「…っ! ~~~~好きにしろ!」
コイツは『オトナ』という言葉に異常に敏感だ。子供扱いされるのを極端に嫌がる。それこそが、子供っぽいと思うのだが。
「冗談だって。嫌ならしない」
栄養バランス満点の俺の作るメシのせいか最近益々艶の出てきたプラチナブロンドの頭をぽんぽんと叩いて手を離してやると、予想通り雷電は赤い顔のまま、キッと睨みつけてきた。
「ああ、もう、判ったよ! 嫌じゃないから、好きにしろ!」
「とりあえず、片付けてメシにしよう。デザートはあとでゆっくり、な?」
俺が風呂に入って念入りにチョコレートを落としている間に、キッチンはスネークがあらかた綺麗にした。しかし材料がないので買い物のついでに久しぶりに外食をして(そういや昼飯も喰ってなかった)、帰ってきた時にはもう既にとっぷりと日が暮れていた。
「で、どうする? どこでするんだ?」
「冗談だって。嫌ならしないって言ってるだろ?」
「嫌じゃないって言ってるだろ! どこか言えよ!」
せっかく逃げ道を作ってくれているのに、思わず墓穴を掘ってしまう。
「なら、キッチンのテーブルだな。後のことを考えたら風呂だが、気分が出ん」
刺々しい俺の言葉を気にする風も無く、まるで本当のデザートの相談のように、スネークがのほほんと言った。
「判った、キッチンだな!」
コートを放り投げ、セーターを捲くりかけた俺の手を、大きな掌が笑いながら押さえる。
「やる気満々なのは結構だがな。部屋が暖まってからにしろ。風邪をひく」
ヒーターのスイッチを入れ、俺の散らかしたコートをフックにかけてジェシーをベビーベッドに寝かせる横顔は、いつも通りだ。俺はといえば不安と羞恥と――――もしかしたら期待とで、ずっとドキドキしっぱなしなのに。これじゃどっちが「やろう」って言い出したんだか判らない。
結局その後、買ってきた食料を片付け、ソファに並んでテレビのニュース(内容は全然覚えてない)を見ながらコーヒーを飲んで。すっかり飲み終わっても、スネークは何も言い出さなかった。
やっぱり、ただの冗談だったのか? 別に……やりたかったワケじゃないけど。
空になったマグカップを手で弄びながら考えていると、物置でガサガサやっていたスネークが真っ白い布の固まりを持って戻ってきた。
「? 何だ、それ?」
「カーテンだ。テーブルクロス代わりにと思ってな。ビニールのクロスのままじゃ、冷たいだろ?」
やっぱ、するのか。
俺は頬に血が上がるのを感じながらも、黙って頷いた。スネークの後ろについていき、キッチンに向かう。スネークはテーブルに白い蔦模様のカーテンを拡げると、ゆっくりと俺を抱きしめ、口付けた。何度も深く口腔を貪られ、頭の芯がぼんやりし始めた頃、服を脱がされてテーブルに横たえられる。下着を膝まで下ろされて、やっと俺は自分が煌々と点いた蛍光灯の真下で全裸を晒していることに気がついて飛び起きた。
「ちょ…っ…電気消せよ!」
「消したらトッピング出来ないだろ?」
「……っ、じゃあせめて、アンタも脱げよ!」
俺はスッポンポンで俎板の鯉よろしくテーブルに転がってるのに、スネークときたら脱ぐどころかエプロンまで着けて俺を見下ろしているのだ。スネークの裸エプロン姿なんか見たくもないけど、これじゃあんまり不公平じゃないか。
「ダメだ。俺は今、パティシエだからな。ケーキは大人しくしてろ」
そんなわけの訳の判らないことを言って無理矢理俺をテーブルに寝かせ、下着も取り去ってしまう。
「サイテーだ、この変態!」
「言葉遣いが悪い」
ぎゅっと目をつぶって毒づく俺の唇をペチペチと叩いて嗜める。でも可哀想に思ったのか、瞼に軽く口付けながらそっとそこをナプキンで覆ってくれた。それから鼻歌交じりで生クリームを泡立て始める。
「……っ、楽しそうだな、アンタ」
「おう、楽しいぞ♪ 何と言うか、あれだな、積もったばかりの雪に足跡付けるのって妙に楽しいだろう? あんな感じだな」
「俺は雪か……」
「雪よりずっと上等だ」
赤くなってむくれた頬に、あやすような唇が下りてくる。段々と心地好いそれに気持ちが落ち着いてきて、俺はいつのまにか全身に篭っていた力を抜いて深い息をついた。
「よし。じゃあ、ちと冷たいだろうが我慢しろよ」
生クリームが出来たらしい。ここに落とすぞ、という合図のように、スネークがチョンチョンと鳩尾の辺りを指でつつく。そこに落とされたベトリと冷たい感触に、予想はしていたものの、俺は思わず眉を顰めた。
「……冷たい……気色悪い……」
「我慢しろって」
スネークは喉の奥でククッと笑いながら、ヘラで丹念にクリームの塊を延ばしていく。鎖骨から腰骨の辺りまで。さすがにアソコにまではやる気は無いらしく、ナプキンは取られなかった。
時折ヘラの先が知ってか知らずか俺の弱いところを掠めて、ピクリと反応してしまう。少しずつ、腰の奥がモゾモゾしてきた。触れるか触れないかくらいで撫で回されているような。ちょっと……気持ち好い、かも。しかし俺の反応の変化に気付いている筈なのにスネークは知らん顔で、何も言わずに作業を続けた。ヒーターの低い音だけが、やけに大きく聞こえる。
「これで良し、っと」
「…っ、出来たのか?」
ホッとして身を起こしかけた俺の肩を、スネークが慌てて押さえつける。
「こらこら、動くな。まだ土台だけだ」
「……さっさとしてくれ」
俺は目を瞑って、またコロリと横になった。ガサゴソと冷蔵庫から何かを出している音がする。フルーツでも載せる気のようだ。缶詰を開ける音、包丁で切る音、粉を挽く音。音。音。音。
まるで自分が物言わぬオブジェにでもなってしまったかのような、奇妙で切ない感覚。
それから俺の身体の上でモソモソと何かをしている気配が暫くして、ようやくスネークが息をついた。
「良し、いいぞ。見てみろ」
目を開けてみて驚いた。真っ平らのクリームの土台の上に完璧なシンメトリーで揚羽蝶が描かれ、その上に白と黒のチョコレートソースで丁寧にメッシュをかけて、イチゴや黄桃、キウィ、洋ナシ、ラズベリーで翅の模様を象って、鱗粉のように黒いパウダーが振り掛けられている。これだけ綺麗なケーキは今までお目にかかったことが無かった。高級レストランのケーキと言っても通るだろう。乗っかってるのが俺の身体の上でなければ、だが。
「……はぁ。アンタ、何でこんなことまで器用なんだ」
「実はケーキ屋やってたこともある」
呆れ半分、尊敬半分で溜息をつくと、スネークは胸を張ってカカカと笑った。
「ウソばっか。……あれ、このパウダーって――――」
「おう。お前の作った奴を挽いたんだ。せっかく作ってくれたのを、全部捨てちまったら勿体ないからな」
「あんな不味いモノ」
かけてどうするんだ。喰えなくなっちまうぞ。不服そうな俺の目の前で、スネークがチッチッと人差し指を振る。
「要は使い方だ。絶対美味いって。もし不味かったら、俺にどんな悪戯してもいいぞ?」
「ホントに?」
「ああ、絶対だ」
そう言うとスネークは惜しげもなく俺の胸元にあったイチゴを歯で軽く咥え、勃ち上がりかけた乳首の周りをなぞる様に、クリームとチョコレートをたっぷりと擦り付けた。ぞくりと首を竦ませて少し開いた俺の唇にそうっとその塊を含ませる。ふわりと生クリームとチョコレートの柔らかい甘味が口一杯に拡がって――――嘘、すごく、美味しい。俺の作ったケーキもどきの苦味が安っぽいチョコレートソースの甘味にコクを出しているだけじゃなく、イチゴの酸味まで消してしまって、甘味と爽やかさだけが口の中に残る。
「どうだ? いけるだろう?」
自慢そうに胸を張るのに、思わず素直にコクコクと頷いてしまった。
「もっと喰うか?」
そう言って又、フルーツを咥えてクリームを擦り付け、俺の口に運ぶ。やっぱり美味しい。俺が無心に味わうのを見て、スネークはまた愉快そうに声を立てた。鼻も頬も顎もクリームとチョコレートまみれになって得意げに笑うその顔はガキ大将みたいで、何だか可愛い。俺は両の掌でその頬を包んで、ゆっくりと引き寄せた。
「……いっぱい付いてるぞ。伝説の傭兵が、カッコ悪い……」
浅黒い精悍な顔に付いたクリームを舌先で丁寧に舐め取る。スネークはちょっと擽ったそうにしながらも、黙って俺の好きにさせてくれた。舐め終えて口付けると、また、スネークがフルーツにクリームをまぶして、俺の口に運ぶ。俺はそれを味わって、彼の顔に付いたクリームを舐め、口付ける。
しばらくそうやって、親鳥と雛のようにクスクスと笑いながら、俺達は俺の身体に盛られたデザート?を味わった。
何だかふわふわと楽しくて、ムズムズと心地好い。確かにこれは彼の言う通り、『オトナの遊び』と言えるのかもしれない。
あらかた食べ終える頃には俺はもうすっかり、その気になってしまっていた。
「そろそろ塩っ気が欲しくなってきたな」
スネークは悪戯っぽく笑うと、俺がすっかり存在を忘れていたナプキンを取り去った。先走りの液がツゥッと糸を引く。途端に拡がる蒸れた雄の匂いが恥ずかしい。彼は視線を合わせたまま、俺の胸元から恥骨の近くまでゆっくりと舌を滑らせ、それからおもむろに先端の雫を軽く吸い上げた。
「……っ!」
「うん、ほど良い塩味……ちと苦いか?」
そんなことを言って上目遣いで揶揄うように笑う。俺はその頭を軽くはたいた。
「この…っ」
その後もスネークは滲み出す液だけを掬い上げるように、執拗に先端をちろちろと舐め続けた。その度に全身がヒクリと跳ね上がる。感じる、でも、もどかしい。
「ん……スネーク、俺も……」
硬い髪を引っ張って促すと、スネークは一旦俺から離れて手早く服を脱ぎ、俺の上に覆い被さった――――上下を逆にして。
69の体勢で、俺の目の前に望んでいたモノがくる。彼も既に雫を滲ませていて、俺はそれを愛おしむようにゆっくりと舐め取った。濃厚な海の味が、甘味に慣れた口腔に心地好く拡がる。こんなものを美味しいと感じるのが、恥ずかしいけど嬉しい。
膝をついた彼のごつい腰に縋るように両手を回し、上半身を少し起こして中程まで口に含む。少し強めに吸い上げると、スネークが満足そうに低く呻いた。
彼の性感を高めようと、目を閉じて丹念に舌を使う。スネークの雄の匂いが強くなった。彼は体臭にも少し、煙草の匂いがする。それは俺にとってはむしろ好ましい、媚薬の様に感じられた。
スネークも俺の太腿を抱えるようにしてテーブルから投げ出していた膝を曲げさせ、ようやく俺のモノを咥えてゆったりと愛してくれた。脚を大きく拡げられ先走りを指先で引き伸ばされて、袋やその奥の蕾もやわやわと揉みしだかれる。
「ん…っ、ふ…ぅ…あ、あん……ぅん…っ…」
なされる指戯に鼻を鳴らしながら、頭を上下左右にくねらせて変化をつけ、舌全体を絡める。時折、舌先で割れ目をくじって、滲み出す液をジュルジュルと音を立てて啜る。
そうする内にもスネークの太い指が、1本、2本と根元までじわじわと出し入れされ、かと思えば少しだけ含ませたまま激しく揺さぶられる。俺はその度にスネークのモノから口を離して喘ぎ、またすぐに吸い付いた。
「…っは、も……だめ…」
快感に息が乱れ身体が震えて、段々と奉仕を続けることが出来なくなってくる。縋りついた腰に爪を立てて『欲しい』と訴えると、スネークはおもむろにテーブルから降りてニヤリと笑った。
「まあ待て。まだ下の口では喰ってないだろ?」
「え…?」
その言葉の意味を理解する間もなく、熱く火照った敏感な粘膜に冷たい金属の感触。そして。
「…っあ、やぁああぁっ?!」
絞り袋の口金だ、と気づいた時にはもう、ひんやりとした生クリームが俺の中に流し込まれていた。
「あ、あ、やだ……冷た、い…っ」
「すぐに温めてやる」
髪を振り乱す俺のこめかみに優しく口付けながらも、スネークは容赦なく袋を握り潰し続けた。冷たいものが狭い肛道に勢いよく満たされていく。普段使っているオイルやローションとは違う感触に、俺は息を詰め、顔を背けて耐えるしかなかった。
入って来る量が殆どなくなって息をつくと、スネークはぐったりした俺の身体を裏返して、床に脚を着かせた。ちょうど先端がテーブルの角に擦れて、俺はまた一瞬息を詰め、これから与えられる筈のものを受け入れようと身体の力を抜いた。
しかし――それはなかなか来なかった。そうしてじっとしていると下腹の中の違和感が余計に大きく感じられて、俺は身を捩った。
「ぅん…っ」
思わず咎めるような声が出る。それに応えるように、スネークは俺の両手を背中で一纏めにして押さえ、もう片方の手の指をそこにあてがった。揃えた2本の指が、じれったいほどにゆっくりと入って来る。一旦根元まで押し込んだ指を中で大きく拡げて、スネークはそのまま、じわじわと抜き出し、中ほどで留めた。
「…あっ、や…っ!」
グチュグチュといやらしい音を立てながら、俺の中で溶けた生クリームが拡げた指の間から溢れ出す。慌ててきつく締めつけても、挿入された指のために完全に閉じることが出来ない。余計に溢れ出る量を増やしてしまっただけだった。白く温かいとろりとした液体は、別のものを連想させる。とめどなく溢れて内腿を垂れ落ちるその感触に、俺は身体を震わせて喘いだ。
「…っふ、ぅぅうん…っ…」
「すごいな……何発も犯った後みたいだ」
興奮しているのか、彼の声も少し掠れている。羞恥に藻掻く俺の両手をがっちりと押さえつけて、指を深く挿しいれては荒っぽく掻き乱し、拡げたまま半ばまで抜き出して粘液を溢れさせるという行為を繰り返す。
「あ、や、やぁあ…っ」
身悶えるうち俺の身体は段々とテーブルに競りあがって、俺のモノは完全に自分の身体とテーブルとの間に押し潰されていた。
溢れ出るものの量が大分減ってきてから、スネークはようやく指の動きをいつもの優しく探るようなタッチに変えた。俺の感じるところを長く節くれ立った指で撫で、叩き、ゆっくりと揉み込む。
「あ、あ、やだ、も、早く…っ」
「焦るなって。もっとイイ声が聞きたい」
達することが出来るほどは激しくなく、かといって熱が冷めるほどには間を空けずに。ゆるゆるとじらされ続ける。
疼くそこに早く、いつものが欲しい。
優しい指じゃなく、スネークの熱くて堅いモノで滅茶苦茶にされたい。
延々と続くもどかしい愛撫にとうとう我慢できなくなって、俺は荒い息の下で罵りの言葉を吐いた。
「も…っ……さっ、さと…しろよっ、バカ…ッ……変、態……エロ、オヤジ…っ」
「――可愛くない奴だな。お仕置きだ。もうちょっと付き合ってもらうぞ」
俺の罵声に少し気分を害したらしいスネークは、その辺に放り出してあったエプロンでさっさと俺を後手に縛ると、先走りの染みのついたナプキンで俺に目隠しをした。自分の淫らな匂いに、只でさえよろめいていた理性がくらりとする。スネークは俺の腰を押さえつけて、尻を突き出させた。
「何、簡単なゲームだ。ココで――――」
空いた手でグイと谷間を拡げる。蕩けて敏感な蕾に当たる外気に、身が竦む。
「喰ったものを当てるだけだ。上の口でも喰ったから楽勝だろう?」
「な…っ!」
腰を強く押さえられるとテーブルにゴリゴリとあそこが押し潰されるので、殆ど抗うことも出来ない。俺は仰け反って肩を揺らすことしか出来なかった。曝け出された秘所に、ひやりとした塊が押し付けられる。
「力抜いてろ。潰したら、ちゃんと出来るまで何個でも入れるからな」
耳元に脅すような低音が響く。俺は震えながらも極力、身体の力を抜いて、その、塊を受け入れた。2センチくらいの丸みを帯びた円錐形。表面のつぶつぶと、産毛のようなザラザラした質感。さっき食べたもの。
「ほら、簡単だろ?」
「……イ、イチゴ?」
「正解。じゃあ、コレは?」
休む間もなく、さっきとは違う少し小さな塊が突き入れられる。全体的には小さいが表面の粒の大きさはさっきよりも大きく、擦られる感触が強烈だった。
「う、あ…ぁ……ラ、ズベ…リー?」
「へぇ、流石だな。じゃあ次はちょっと難しいのを――」
ちょうど指くらいの大きさの細長いものが、ヌルリと入ってきた。それに押されて先に入れられたイチゴとラズベリーが更に深いところを擦っていく。そのざらついた質感に、全身が慄いた。
「っあ、なに……も…桃?」
「残念。もう一度だな」
さっきのと同じ塊がまた入ってくる。無意識に押し出そうとする動きに、グイと押し込まれる。狭いそこが満たされるのにつれて頭の中が無くなっていくようだ。何も考えられなくなっていく。俺は身をくねらせて頭を振った。
「あぁっ……も、わかん…ない…」
「仕方ないな」
そう言うとスネークは今度はそれを中ほどまで入れて、ゆっくりと前後にくゆらせた。
「ほら、こうすれば判るだろう?」
蕩けた粘膜に微かに、細かなざらつきを感じる。種とか粒とかじゃない。これは――これは?
「あ、ん、…………よ、洋梨?」
「そう。で、こっちが桃」
梨よりも更に少しぬめったものが押し当てられる。大きさは同じくらいだが柔らかいそれは、俺の括約筋に負けて、なかなか入らない。2、3度押し当てた後、スネークはそれを自分の指と一緒に強引に突き入れた。
「…ひ…っ! …あ、あ、ぁうん…っ…」
含ませた指先でそのまま中を掻き乱されて、俺は身を揉み、あられもない声を出した。スネークの指がうねる度にザラザラやツブツブやヌルヌルが、感じるところを擦りたてて、射精感が一気に高まる。
だけど、こんな風になんか、絶対イキたくなくて。
髪を振り乱し、啜り泣きながら、俺はその異様な、激しすぎる前戯に耐えた。ガクガクと震えて支えきれずに身体がずり落ち、スネークの指を更に深く咥え込んでしまう。堪らなかった。言葉を出すと、殆ど泣き声になった。
「あ、も、もう…ぅん…っ…は、やく…スネークの……欲し、い…っ」
「――これ、どうする? 一旦出すか?」
節の長い2本の指で中のグチョグチョに潰れた塊を一つ摘んで、ズルリと引き出しかける。ずくん、と衝撃が走って、俺はイッてしまいそうになるのを歯を食いしばって堪えた。
「…やぁ…っ! ……そ…そのまま、で、いい…っ…あ、早く…」
ようやく待ち侘びた熱く、堅いものが押し付けられる。そして。
「…っふ、ふぁあああぁ…っ! …ぁ…ぁ…あぁ…っ…う、ふ、うぅ…っ…」
それが異物を力強く押し退けて半ばまで埋め込まれた瞬間、俺はもう、達してしまっていた。しかしテーブルと二つの身体に押し潰されてひしゃげたままでは、勢いよく噴き出すことが出来ない。絶頂はジュクジュクと断続的に、長々と続いた。
ようやく放出を終えてぐったりと荒い息をつく。スネークが俺の右脚を自分の肩に抱え上げて、俺の下半身を横向かせる。俺は呼吸を整えながら、まだ余裕を見せている彼の顔を肩越しに睨みつけた。
「ア、 ンタ……焦らし過ぎ…っ…」
一緒にイキたかったのに。恨めしげに呟くと、スネークはニヤリと笑った。射精を終えて少し項垂れた俺のモノを右手で包み込み、吐き出した体液を塗り込むようにニュルニュルと扱く。まだ充血しているそれは過敏に快感を伝える。彼は同時にゆっくりと、半ばまで入れたままだった肉棒をくゆらせ始めた。
「や…っ……ちょ……休ませろ、よ…っ」
「いい若いモンが何言ってる。まだまだイケるだろ?」
抗おうと捩った胸の紅点を少し強めに啄ばまれ、反り返った彼自身をいきなり奥まで捻じ込まれて、俺は悲鳴を上げて仰け反った。
「い…っ! …っあ、やだって…ば…っ…」
注挿されると、入れられたままの異物の存在が嫌でも思い起こされる。スネークはわざとそれを攪拌するように腰を使った。その度に淫らな肉に擦れる異様な感触が、確実に俺を狂わせる。
「こんなに悦んでるくせに」
ココも、ココも。ココもな。
彼は固く痼る乳首を吸い上げ、抉じ開けられて薄くなった敏感な入り口を空いた手でなぞり、早くも再び蜜を溢れさせ始めたモノの先端を指先で弾いた。
「あ…っ…ん……ぅん…っ!」
スネークの言う通り、俺の身体は既に次の絶頂へと駆け上がり始めていた。何度か浅く突いては根元まで一気に含ませられ、俺はその動きに腰をくねらせて応えた。無意識に、受け入れる時には緩め、抜き出される時には締め付けて、逞しい雄の凶器を狭い器官でねっとりと扱く。蕩けた肉に感じるゴツゴツした隆起がたまらない。
「あ、あ、あぁっ……あ、う、う、ぅふぅ…っ…」
「…ぅお……ぉ…」
満足そうな低い呻き声を聞きながら、俺は上半身をうつ伏せに戻して更に腰を突き出した。テーブルに頬を押し付けて身体を支える。両の掌で尻肉を拡げて、自らを犯すモノを更に深くまで受け入れた。
スネークの唇が今度は耳や背中や項に降りてくる。そこここを舐め、吸い上げ、歯を立てる。その度にじわじわと快感が底上げされていく。
「っあ、ん、ぅんっ……す、ご…い、いっぱい…いい…っ…」
軋んでいる箇所から全身がバラバラになってしまいそうで、俺はたまらずに仰向けになってがっしりとした首にしがみ付いた。噛み付くような勢いでキスをねだると、スネークも俺の髪を掴んでたっぷりと深く口付けてくれる。互いに荒い息の中で流し込まれる甘露のような唾液を、貪るように飲み下す。
「ん、ん、ぅんっ、ダ、メ…また、来そ、う…」
「ちょっと、待て…俺も、もうすぐ…」
激しいキスの合間に限界を告げると、耳元に甘く掠れた声が返された。彼もすごく感じてくれている。そう思うと、何かとても安心して心が満たされた。頬を擦る、無精髭の痛痒ささえ、心地いい。
スネークは俺の両脚をそれぞれの肘に抱え上げて、両手を俺の背中に回し、そのまま抱き上げた。挿入が更に深くなる。俺はしがみつく腕に力を込め、膝を曲げて彼の腰を自分の尻に引き付けた。全身を彼に押し付け、髪を振り乱して身悶える。先走りと精液と生クリームが、汗まみれの互いの身体の間でぐちゅぐちゅといやらしい音を立てた。
「そ、んな奥…っ……あ、あ、も、ス、ネ……ク…ッ」
「く…っ……雷電…っ」
背中に回されていた掌に尻肉を裂かんばかりに拡げられ。一番深いところを熱い切っ先でゴリゴリと抉られ。蕩けた狭い蜜口に、滾る睾丸さえ捻じ込まれそうで。
昇る。堕ちる。溶け合う瞬間。
「あ――っん!―――んぁああぁああぁっ―――――!」
「――嫌だって言ったのに」
ようやく息も整って、クロス代わりのカーテンを身体に巻きつけてぶうたれる俺の頬をスネークがあやすように撫でる。
「嘘つけ」
あっさりと否定されて俺は思わず身体を起こして突っかかった。
「な、なんで嘘なんだ!」
「見てたぞ、この前のVR。本当に嫌なら、腕が使えなくたって俺を蹴り飛ばすくらいわけないだろ、お前」
確かに2、3日前、VRで両手を使わないトレーニングをした。足だけで次々敵を倒していく俺を見てスネークは「人間凶器」と揶揄った。だから何だかんだ言っても暴れなかったのは、俺が本気で嫌がってはいない証拠だと。
「途中からは『蹴り殺されるかも』と思ってちょっとは警戒してたんだがな」
必要なかったな、と笑いながら、俺の顎を掬って口付ける。何だかもう、怒る振りも莫迦莫迦しくなってきた。確かに気持ち良かったし、やめさせようと思えば出来たのだ。諦めて、俺は素直に舌を絡めた。
「はぁ、何か……体中ベトベトして気色悪い」
「砂糖が入ってるから流さないとな。――立てるか?」
促されて床に足を着いたもののカクンと膝が砕けて、俺は先に立ち上がったスネークの腕に慌てて掴まった。
「――――あ、ダメだ。無理っぽい」
「仕方ないな」
「ぅわ…っ!」
スネークはそんなに軽いわけでもない俺の身体をカーテンにくるんだまま、ひょいと抱き上げた。
――――俗に言う、『お姫様だっこ』というやつで。そのままスタスタとバスルームに向かい始める。
「わわっ! やめろよ、後で自分で行くってば!」
「嫌なら今度は腕が使えるだろ?」
赤くなってジタバタするのに、意地悪く、揶揄うように言う。俺は溜息をついて、がっしりとした浅黒い首に両手を回した。しがみついて頬を擦りあわせる。スネークが満足そうに笑った。
「締める気かと思った」
「アンタは敵じゃないから、倒すと減点だろ?」
「減点どころかゲームオーバーだ」
俺達は笑いながら、ゆっくりと満ち足りたキスをした。
それはやっぱり――――とろりと甘かった。