「……シャワー、借りていいか?」
スネークに抱きすくめられ、長い長い口付けを交わした後で、俺はドキドキしながらそう切り出した。
流れ的には、普通、この後アレ……だよな。でもローズの所から飛び出してここ数日、風呂に入ってないし、それでなくても昨夜はびしょ濡れのまま寝入ってしまって、その上に毛布やら何やらで布団蒸し状態(いや、冷えないようにって配慮だろうけど)にされていたし。自分ではかなり体臭の薄い方だとは思っているが、それでもかなり蒸れて臭い……かも。
それにやっぱり「心の準備」って奴も、しておきたい。
何せ、男相手に同意の上で、ってのは初めてだし、しかもどっちかというと、こっちの方がプッシュしちゃってるわけだし。
「ああ。タオルとか石鹸は適当に……いや、ちょっと待て」
名残惜しげに俺の髪を撫でていたスネークが、突然慌てた様子で立ち上がる。
「何?」
「2分で戻る。ちょっと待ってろ」
そう言い残すと、あっという間に出て行ってしまった。一体どうしたってんだろう?
仕方なく俺はベッドに腰掛けたまま、サイドボードに置きっぱなしの新聞を手に取った。でも、あんな経験のあとでは、「新聞」や「マスコミ」なんてちっともあてに出来ないから、読んでも全然頭に入らない。もともと、文章読むの苦手だし(でも「シャドーモセスの真実」だけは自分で買って暗記するくらい読んだけど)。
ふぅ、と溜息をついてテレビでも点けようかとした時、スネークが帰ってきた。腕に大きな紙袋を抱えて。
「これを使え」
紙袋の中身は、シャンプー、リンス、ソープ、大小のタオルに、歯磨き、歯ブラシ(何故か髭剃りは無い)。特にシャンプーとリンスは何だか高そうなラベルがついたものだ。
「わざわざ俺の分、買いに行って来たのか?」
「ああ。予備なんか置いてないからな」
「そんなの、アンタのを貸してくれるだけでいいのに」
どうせ普段から使ってたのは軍の宿舎から(勝手に)持ち帰ってきた安物ばかりだ。男臭いのもボロボロなのも慣れている。俺は物に関しては「とりあえず使えればいいや」な人間なのだ。
「じゃ、アンタがこっちのサラの分使ってくれ。俺は今出てる分でいい」
いきなり押しかけてきて、新品を買ってもらって使うというのも気が引ける。俺がスネークの買ってきたものをテーブルに置いたままバスルームに行こうとすると、スネークが俺の手にシャンプーとリンスをがっちりと握らせた。しかも物凄く真剣な顔で。
「なら、頭洗うときだけは、絶対にこっちを使え。いいな?」
「? どうして?」
「俺の分には染料が入ってるんだ」
スネークが実は元々金髪だったなんてその時は知らなかった俺は、おそるおそる、納得の行く解釈を口にした。
「……って、まさか…………白髪染めとか?」
「っ、潜入用に染めとるんだ、馬鹿者ォ~!」