「見惚れる程の男前か?」
「……え?」
スネークの唇が動くのをぼんやりと見ていた俺は、その言葉が自分に向かって発せられたと認識するのに少し時間が掛かった。慌てて視線を外し、とりあえず目の前のナンを手に取る。
「さっきから、何をじろじろ見てるんだ?」
「あ、いや……別に。ちょっと考えごと」
ホントは何も考えてなかったけど。ふん、と鼻を鳴らしてスネークが再び食事に手をつける。ナイフとフォークを使って器用に骨にへばりついた肉を切り離し、次々に口に運んでいく。うまく出来なくて半ば手掴みで頬張っている俺とはえらい違いだ。
今夜のメニューは骨付きカルビのマーマレード煮ときのこサラダ、クラムチャウダーに焼きたてのナン。デザートはブルーベリーのタルト。俺が作ったのはサラダだけで、俺がレタスやトマトやエリンギと格闘してる間にあとは煮込むだけになっていた。ナンだって、俺がバケットを買い忘れたのでスネークがさっさと粉から焼き上げてしまったものだ。「器用なもんだ」と感心すると、彼は「隠居中は料理と犬ぞり位しか楽しみがなかったからな。何、たいして難しいモンでもない。そのうち教えてやる」と少し得意そうに笑った。
スネークは、一人で何でも出来る。
几帳面とか潔癖とかには程遠いが、不精に見えても生活自体は意外な位きちんとしている。面倒臭がりで必要にならないと動かない俺や、研究や調査に夢中になると寝食を忘れるオタコンよりも余程マトモだ。仕事でも、多少のことなら何でも一人で調べ、考え、行動する。「一人暮らしが長かったからな。騙されることも多かったし」とスネークは笑うけれど。
俺は一体、彼の何の役に立つんだろう?
せいぜい性欲処理くらいかもしれない。でもそれだって、別に俺でなくてもいいはずだ。オタコンによれば、以前も女性に不自由はしていなかったみたいだし。当然だろうな、男の俺から見たって、こんなにいい男なんだから。
無骨に見えて、器用に動く指。うっすらとヒゲの浮き始めた口元。しっかりと噛み砕く顎。静かに上下する喉仏。厳しさと思い遣りを湛えた深いエメラルドグリーンの瞳。
「……何なんだ、一体。口に合わないか? それとも何か言いたいことでもあるのか?」
「…え? あ、あ、その……何でもない。……美味いよ、これ」
いつの間にか、また俺は手を止めて彼を眺めていたらしい。気の利いた言い訳もとっさに思いつかなくて、俺はそれだけ言って黙り込んだ。スネークが少し不審そうな顔で肩を竦め、ビールを煽る。
「……ま、言いたくなければ構わんがな。お前、最近ちょっとおかしいぞ?」
確かに、俺は最近おかしい。ここ数日、気がつくとスネークをぼんやり眺めていることが多い。見つめているだけで、体が熱くなる。何でもない仕草の一つ一つに、ぞくりと感じてしまう。まるで自分がサカリのついた猫みたいでイヤなのに、やめられない。
俺はスネークに聞こえないように小さく溜息をついて、とにかく目の前の食事を平らげることに集中した。
何とか食事を終えて、晩酌の時間。
スネークはウォッカを空けながら、STIを分解している。このアパートには配電盤、テーブルの下なんかに常時5、6種類の銃器が置いてあって、毎晩酒を飲みながらその中の1丁を手入れするのが彼の日課だ。俺もやり方は知らないわけではない。だがいつも支給されたものを試射して問題がなければそれで終わりにしていたから、滅多に自分で整備することなんてなかった。
銜えタバコでそれぞれの部品を矯めつ眇めつしながらウェスやブラシで磨き、職人さながらの慣れた手つきで再び組上げていく。俺はソファーに横になってジェシーを寝かしつけながらTVを見るともなしに見ていたが、視線はいつの間にかスネークの手元に向けられていた。滑らかに動く指が最後に銃身を撫で上げた時、自身に触れられたような錯覚に吐息のような喘ぎが唇から零れた。
「? 何だ?」
聞き咎めたスネークが不審気に顔を上げる。思わず目と目が合ってしまい、俺は慌てて視線を逸らした。
「……っ、……何でもない」
「お前なぁ、『何でもない』って今日何回目だ? 一体どうした?」
適当な言い訳も思いつかなくて、俺は唇を噛んで俯いた。無骨な指が労るように俺の顔を上向かせようとする。頬に血の上った表情を見られたくなくて、俺は乱暴にその手を払い除けた。
「……何でもないって!」
「何でもない訳ないだろう! ……お前、ホントにおかしいぞ? ん?」
一瞬声を荒げたものの、しゃがみこんで心配そうに顔を覗き込んでくる。そんなスネークの顔をマトモに見られなくて、俺は身を捩って彼に背を向けた。
スネークが溜息をついて後ろに座り、タバコに火を点ける気配がする。俺が自分から話すのを待っている。1分か5分か10分か。沈黙に耐え切れなくなって、俺は噛み締めた唇の合間から言葉を押し出した。
「…っ…どうせヘンなんだ、放っておいてくれ……!」
「雷電……何を考え込んでる? それともどこか具合でも悪いのか?」
苛立ちと気遣いの入り混じった声で問い詰められ、宥めるように小さく肩を叩かれる。それに押されるように、口が動いた。
「……俺、ヘンなんだ……アンタに触れられるだけで……アンタを見てるだけで、ヘンな気分になっちまう」
「ヘン…ってつまり……もよおすというか……『したく』なるってことか?」
スネークが一瞬声を詰まらせて、言い難そうに続ける。
「そうだよ! したくて堪らなくなる……!」
その間が耐えられなくて、俺は肩に置かれた手を振り払おうとした。押さえ込む強い力で、きつく抱き留められる。
「落ち着けって!……まぁ、若いからな。若い時は、そういうこともある」
「違う! 普通じゃない、度が過ぎてる! ……なんか……自分がすごく汚らしい生き物みたいで……すごくイヤだ……」
一気に吐き出してしまって、それと同時に力が抜けた。ぐったりと項垂れた俺の頭を彼の掌が撫でる。大きくて骨張っていて、硝煙と油とヤニの匂いがして、でも器用で繊細な優しい指。
「……別に、いいんじゃないか? 俺は気にしないぞ? むしろ嬉しい位だ」
わざと茶化すように言う。それでも頭をよぎるのは昔のこと。あの忌まわしい過去のせいで、こんな体になってしまったのだろうか。だとしたら。
「俺が気にするんだ……こんなの……カッコ悪い……アンタにふさわしくない」
いつでも彼にふさわしい自分でいたいと思うのに。ポンポンと俺の頭を叩いて、スネークが笑う。
「じゃあ、俺はお前よりずっとカッコ悪いな」
「なんで? アンタはカッコイイよ。良過ぎる位だ」
「良くもないさ。年甲斐もなく、一日中お前を抱きたくて堪らないからな」
くい、と顎を掴まれて上向かせられた。間近に見える深緑の瞳が、俺を映している。安っぽいガラス玉みたいな俺の目とは違って、優しさと厳しさを湛えた深い森のような。
「…………ウソだ」
嘘でもいい。そんな嘘をついてくれる心が嬉しいから。
「こんなカッコ悪い嘘、ついてどうする?」
おどけた調子で言いながらタバコを捨て、唇が降りてくる。2度、3度と繰り返し啄ばまれている内に、段々いじけていた気持ちが解けていく。俺はスネークの鎖骨にこめかみを預けて、熱の上がり始めた吐息をついた。
「……悪い。俺って面倒臭いよな。……嫌になるだろ?」
「そうだな。ちょっと面倒な時もある……だがそんなところも気に入っている俺も、どうかしてるな?」
もう一度、今度は深く口付けられる。不安も拘りもすべて溶かしてしまうような、ゆっくりと優しいキス。
「……アンタって、俺を甘やかす天才だな」
「そうでもないさ」
熱に浮かされたように潤んだ視界。いつもならこんなディープキスの後は……必ず、抱いてくれるのに。ゆるく抱きしめているだけで何もしてこないスネークに焦れて、思わず伺う視線を向けた。
「……スネーク?」
「見せてみろ」
「…?」
何を言われてるのか判らない。少し首を傾げると、スネークはちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべて俺の頬を撫でた。
「俺を見てるだけで感じるんだろう? じゃあ、お前も俺に見せて、俺を感じさせればいい」
「…っそんな……恥ずいコト……」
意図に気付いて、かあっと頬に血が上る。
「なんでだ? 俺もお前を見てるだけで感じるなら、お互い様でお前も気にしなくて済むだろ? ほら」
俺を抱きこんでいた腕が、ゆっくりと離れていく。途端に切なくてたまらなくなる。
しばらく躊躇したものの、結局俺は自分のシャツに手をかけた。鼓動が高まる。ぎこちなくボタンを一つずつ外し、袷を開いていく。スネークの視線が質感を伴って、指の動きを追う。まるで触れるか触れないかのタッチで、なぞられているような。
おずおずと胸を露わにすると、二つの突起が既に硬く張り詰めているのが視界の隅に入った。思わず眼を瞑って掌で覆う。拍子に指が擦れて、痺れるような快感が背筋を走った。
「どうした? それじゃ見えないぞ?」
「……ス、ネーク……」
「自分で触ってみろ」
「……ぁ…そんな……」
「俺は『見る』だけなんだろ?」
スネークが俺の手首を掴んで押し付ける。手の平に感じるぷつん、とした感触。触られるのとは違う感覚。ぐいぐいと押し付けられるうち、熱が上がってくる。
「…ぅ…ん………は…っ……ふ、ぅ……」
恥ずかしいのに気持ちいい。スネークが俺の手首をゆっくりと離したが、それでも自分で弄るのを止められない。指先で摘み、転がす度に、ぞくぞくと身が竦んだ。俺、胸ってこんなに感じたっけ……? スネークに……見られてるから?
「……ぁ……ぁ……ぅ、ん……っ……」
「いいな、お前。俺も段々その気になってきた。……じゃあ、下も見せてもらおうか?」
「……ゃ……ぁ……」
無意識に擦り合わせていた膝にぎゅっと力が入る。
「嫌か?」
「……っ……あ……」
耳元で囁かれて、期待と羞恥が渾然一体となって湧き上がった。俺は息を飲んできつく目を閉じ、ゆっくりとジーパンに右手を伸ばした。ジッパーの擦れる小さな音が耳を苛む。
「もう濡れてるじゃないか。触ってもいいぞ。ただし下着の上からな」
その声に操られるようにおずおずと触れると、既に昂った先端から溢れ出した蜜が布地の上にまで染み出していた。ヌルヌルとしたそれを塗り拡げるように撫で擦る。繊維のざらざらした違和感が、更に興奮を煽った。
「……ぁ……ぁあ……ぁ、ふ……っ……」
熱い視線を感じながら片手で乳首を抓りあげ、硬度を増した自分自身の輪郭を指先でなぞる。段々それだけでは物足りなくなって、強く握って擦りあげると、一気に射精感が高まった。
「…あ、は…っ……イ、イ……い……っく………ゃあ…っ?!」
昇りつめかけた俺の手をスネークががっちりと押え付ける。思わず非難めいた目を向けると、意外なくらい穏やかな顔でとんでもないことを口にした。
「触ってもいいとは言ったが、イってもいいとは言ってない。まだ見せてない所があるだろう?」
「……ぁ、ス…ネー…ク……もぅ……」
潤んだ目で小さくかぶりを振る。
「自分では見せられないか?」
こくん、と頷くとソファーからずり落ちそうなほど腰を前に引っ張り出され、汗で湿ったジーパンと下着が剥ぎ取られた。そのまま足首を肘掛にかけるような形で固定される。すべてを曝け出す、いやらしい格好。
「これでいい。欲しがって喘いでる可愛いところがよく見える」
「…ゃ…っ…」
言われてみると、さっきから疼きを訴えていた部分を余計に意識してしまう。まだ触れられてもいないそこはジンジンと熱を持って、小さな収縮を繰り返している。
「イキたいんじゃないのか? 扱いていいぞ?」
「…あ、あぁ…っ……あ、は……っい……ぁああ……っ!」
興奮と羞恥とで昂ぶりきっていた俺の身体は、再開した手淫にあっという間に精を吐き出してしまった。迸り出た樹液が指の間からトロトロと零れ落ちるのを、ぼんやりと感じる。達しても、淫らな炎が腰の奥でもどかしげに燻っている。
「……っは!……ぁ……ぁ……」
スネークの唇が、小さく痙攣する鼠頸部にゆるく息を吹きかける。たったそれだけで、慄くような熱がまた腰の奥に流れ込んで全身が震えた。
もどかしさに、自分の出したものでぬめる指を息づくそこに忍ばせる。指先に、ヒクヒクと喘ぐ肉の感触。少し力を込めると、ぬるりと入り込む。1本、2本と指を増やす。激しく出し入れし、擦り立てる。
それでも、自分の指じゃ足りない。一番欲しいところに、届かない。
「……ゃ、も……触…って……入、れて……っ…」
「ああ。わかってる」
俺は火照りを自分で慰めながら、半ば泣き声で愛撫をせがんだ。スネークは大きく拡げられた俺の脚の付け根に口付けると、高々と隆起した自分のものを俺の前に曝け出した。
「とても綺麗で……セクシーだった。見てるだけで俺も、こんなになっちまった」
「……ぁ……コレ……」
目にすると我慢できなくなって、上半身を倒してソファーから半分ずり落ちそうになりながら、必死にそれを口に含んだ。いつもより口に余るのはきっと、角度がきついせいだけじゃない。俺のあられもない姿を見て感じてくれたのなら、嬉しい。
「……ン……ゥン……ん、ふ…っ…」
顔を殆ど動かせないので、舌と唇だけで一心に刺激する。全身を交差するような格好で、スネークの舌が俺の欲しがっているところに入り込んできた。ピチャピチャと響く水音。舌と指とで、どこまでも蕩けさせられる。
「……あ、あ……ぅんっ、も……早、く……っ」
与えられる快感に奉仕を続けることが出来なくて。感じる処をいつまでもゆるゆると揉み立てている彼の指を締め付け、腰骨を拳で叩いて抗議した。
スネークの舌が、移動する。濡れそぼった俺のものから溢れ出た蜜を舐め取り、太腿の内側、膝の裏、脹脛、足の指の先まで。ゆっくりと舌を這わせ、時折小さな音を立てて吸い上げながら。
それは愛しいと、愛していると身体に刻み込まれているようで、切なくてじれったくて、でもこの上なく心地良い。
「…あぁ…ス、ネー…ク……スネーク……好き……大好き……」
うっとりと熱に浮かされて、普段は口にしない言葉が思いがけず唇から零れ出た。スネークが少し目を丸くして、それからとても優しい微笑を浮かべる。乱れて湿った俺の髪を何度も梳き上げて、深く口付けて囁く。
「俺もだ…………雷電、愛してる」
「…ぅあぁあ…っ! …ぁ…っく…ぅ……」
一気に奥まで貫かれた。抉じ開けられた肉が軋んで悲鳴を上げているけれど、片足を胸元まできつく折り曲げられていて少し息苦しいけれど、そんなこと気になんかならない。満たされる悦びが、身体中に溢れて止まらない。
「ぁあ…スネ……ク……あ、ん……好…き……あ…あ…っ」
寄せては引く波のように満たされてはまた求めさせられて、悦楽にたゆたいながら言の葉を紡ぎ出す。爛れた肉を纏わりつかせながらゆっくりと引き抜かれ、離すまいと締め付けると最奥の熟した部分にまで鋼のような力で侵される。
それはとても快い侵食。世界のすべてに感謝できるような。天を呪い続けて眉間に皺を寄せて生きてきた自分に、こんな奇跡が起きるなんて今でも信じられなくて。
ああ。そうか。
だから俺は何度でも感じて、確認したいんだと、唐突に理解した。
「あ、あ、あ、ス、ネ…ク…ぁふ、う、あ、あぁ、スネー、ク…っ…」
「雷電…雷電……」
ゆらゆらと凪の穏やかさで寄せていた波が、段々と嵐の激しさを見せ始める。いつの間にか俺はソファに座ったスネークの膝の上で後ろ抱きに抱えられていた。突き上げられる度、握り込まれた先端からトロリと噴き出す蜜が、絶頂が近いことを知らせている。
「…っあ……も…ス、ネー…ク…だ、め……イ、ク…っ」
身体の一番敏感な部分を内と外から責められ、愛されて。
もう限界だと思いながら、それをずっと感じていたくて。
身を捩って口付けを求めると深く返される。そのまま首筋へ流された唇が、突然背中の弱い所に歯を立てた。同時に弄ばれていた乳首がキリリと抓りあげられる。瞬間、頭の中がスパークした。
「…ひ…っ!…………っあぁあああぁ!…ぁ…ぁ……」
真っ白い意識の中で、身の内がギリギリと収縮するのを、そしてそこに熱いものが叩き付けられるのを感じながら、俺は自らも蕩けた欲望を吐き出した。
「なぁ………訊いていいか?」
俺は半分ウトウトしながら、でも寝入ってしまうのが何だか勿体無くて、口を開いた。タバコを蒸かしながら横抱きにした俺の髪を撫でていた手を止めて、スネークが俺の顔を覗き込む。
「何だ?」
「アンタって、実はちょっと……ヘンタイだったりするのか? さっきみたいなのとか……」
今夜はいつもと違ったから、少しびっくりした。実はさっきみたいなのが彼の好みなんだとしたら……ちょっと困る。結構盛り上がっちゃった俺も、もしかして、そのケがあるのかもしれないけど。
「ん? 嫌だったのか?」
「どうしても…ってワケじゃないけど……恥ずいから、毎度ってのはちょっと……」
カンベンしてくれ、と泣き言を言うと、スネークは俺の髪をくしゃくしゃと掻き混ぜて笑った。
「安心しろ、今日のは偶々だ。……ま、スパイス程度には変態かもしれんがな」
「? スパイス?」
彼の喩えは時々わからない。そんなにバカじゃないつもりなんだが。首を傾げて見上げると、指先で俺の唇をチョンチョンと突付いた。
「調味料のない料理なんか美味くないだろう? でも調味料そのものを喜んで食べるのは、よっぽどそれが好きな奴だけだ。かと言って、いくら好きでもいつも同じ味付けじゃ飽きるしな」
「なるほど。それで『スパイス』ね。そりゃあ、いつも同じように突っ込んで出して終わりじゃ、マンネリでつまらないよな」
フムフムと頷いて言う俺に、スネークが呆れた声をあげて天井を仰ぐ。
「突っ込……って、相変わらず情緒がないな、お前は。百年の恋も醒めちまうぞ?」
そのまま脱力したように上を見上げてタバコを蒸かす。俺は身体を起こして、彼の首に両腕をまわした。少し生え始めた髭の感触を頬に感じる。ちょっと痛いけど、ホントはそんなにキライじゃない。
「…………醒めたか?」
我ながら、ちょっと頼りない声が出た。喉の奥で笑いながら、スネークが俺の顎をひょいと掬い上げる。見上げる目蓋に、触れるだけのキスが注がれる。
「……残念ながら、百年くらいじゃ醒めないようだ」
デザートのタルトより甘ったるいセリフが、優しい口付けと同時にゆっくりと降りてきた。